「つかのま」は,
束の間,
と当てるが,
つかのあいだ,
とも言うらしい。
ちょっとの間,
ごく短い時間,
の意味で言うが,『広辞苑』には,
一束ほどの短い間の意,
とあるが,他の辞書(『デジタル大辞泉』『大辞林』)には,
一束(ひとつか)、すなわち指4本の幅の意から,
指四本で握るほどの長さの意,
とあるので,「一束」とは,空間的な意味である。それを時間的に転用したのだと分かる。「束」は,「握ったときの四本の指程の長さ」という意味の他に,
束ねた数の単位,
短い垂直の材,束柱,
(製本用語)紙を束ねたものの厚み,転じて書物の厚み,
といった意味がある。そもそも「束」は,
「『木+たばねるひも』で,たきぎを集めて,その真ん中にひもをまるく回して束ねることを意味する。ちぢめてしめること」
とある。
(甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9D%9Fより)
(金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9D%9Fより)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%9F
には,「束(そく、たば、つか)」について,
(そく、たば)ひとまとめにすること。花束(ブーケ)など。
(つか)建築用語で、梁と棟木との間に立てる短い柱。束柱の略。
(つか)製本用語で、本の厚みのこと。
(そく)古代日本で用いられた稲の単位。→束 (単位)。
(そく)束 (数学): 日本語で束と訳される数学上の概念は複数ある,
等々とあり,「束」は別の意味をいろいろ持たせられている。また,
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%9F_(%E5%8D%98%E4%BD%8D)
に,束と呼ばれる単位にも,
束(そく/つか)→穎稲の収穫量を量る容積単位,
束(そく/たば)→同一物をまとめた計数単位,
束(そく/つか)→矢などの長さを表す長さ単位,
等々がある。ここで,「束の間」で使われたのは,原始的な測定の単位,
握った指四本の長さ,
である。握るほどの長さの意である。「尺」が,「人の手幅の長さ」としたのと,類似である。『岩波古語辞典』には,
束,
柄,
と当て,
ツカミと同根,
とある。「束」が握った手なら,「つか(摑)み」と同じであるのは当然と思えるし,「柄(つか)」とつながるのも自然である。で,
「一握り四本の幅。約二寸五分」
と『岩波古語辞典』にはある。『大言海』は,
柄,
握,
を別項を立てている。「握」の字を当てているのが「束」に当てたもので,
「四指を合わせて握りたる長さの名」
とある。語源は,これで尽きているようだが,『日本語源大辞典』には,
一握・一束(ひとつかね)ほどの間の意(万葉集類林・類聚名物考・雅言考・和訓栞・大言海),
ツカはトキ(時)に通じるか(名語記・和訓栞・),
ツカム(捉)の義(名言通),
ツク(着)の義(言元梯),
ハツカノマの略か(雅言考),
とある。確かに,『語源由来辞典』
http://gogen-allguide.com/tu/tsukanoma.html
のいう,
「つかの間の『つか』は『束』と書き、上代の長さの単位。一束が指四本分の幅、つまり一 握り分ほどの短い幅のことである。 幅の長さから時間の長さにたとえられ、『束の間』と用いられるようになった。」
とするのでいいと思うが,「つか」と「つかむ」の関係は逆かもしれない。「つかむ」の語源は,
束の活用化(俚言集覧),
ツカム(束)の義(言元梯),
ツカヌ(束)と同根(小学館古語大辞典),
ツメカム(爪噛)の義か(和句解・和訓栞・大言海),
ツメカガム(爪屈)の義(名言通),
ツメでシガラムの意(和句解),
等々とあるが,「つかむ」が先にあって,つかんだ指を単位にしたのが「束」かもしれないのである。『日本語源広辞典』が,
「手でツカムほどの長さ+時間」
としているのは,意外と正しいのかもしれないのである。「つかむ」という動作を言語化するのと,その握った指の幅を単位とするには,径庭がある。「つかむ」は動作をそのまま言語化したものだか,それを単位とするには,一定のメタ化,つまり抽象化がいる。その意味で,
束の動詞化,
は,逆に思える。
なお,『笑える国語辞典』
https://www.waraerujd.com/blank-91
は,
「『束』は古代の長さの単位で、指の直径4本分の長さ(つまり拳を握ったときの幅である)。『古事記』で、スサノオノミコトがヤマタノオロチを退治した『十束の剣(とつかのつるぎ)』は、指の幅40本分の長さの剣(と言われても長いのか短いのかよくわからないが、要するに『長剣』という意味らしい)ということ。」
とある。
ツカム→ツカ,
と考えるのが妥当のようである。
参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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