2018年05月08日

垢ぬける


「垢ぬける」は,

(垢が抜けてさっぱりとしている意から)気がきいている,素人くさくない,洒脱である,

と,意味が転じる。要は,

洗練されること,

を意味する。『江戸語大辞典』を見ると,

垢が抜ける,

で,

垢がとれて清潔になる意,転じて,容貌・技芸などが,洗練される俗っぽいところがなくなる,,洒脱になる,

とある。どうやら,清潔になる,という状態表現に,綺麗になるという価値表現へ転じ,さらにそれをメタファに,

洗練される,
とか,
素人さがなくなる,

といった意味に広がったものと見える。『日本語源大辞典』には,

「技芸の拙劣未熟な状態を『垢』にたとえる記述は『風姿花伝』に見える。のち,芸能以外にも,容姿,態度,趣味などの洗練された状態を『垢の抜けた』という句で表現したことが,既に『日葡辞典』に載せられている。『垢ぬけ』という一語の表現は近世になってからである。」

とあり,室町末期以前に遡ることがわかる。

その「あか」に,

垢,

を当てたが,「垢」(漢音コウ,呉音ク)の字は,

「后(コウ)は『人のしりを開いた姿+口(あな)』の会意文字で,人体の後ろ,低いところにあってよごれた肛門を示す。垢は『土+音符后』で土砂が低いところにたまってよごれたものの后こと。厚(土が低くたまる→分厚い)と縁が近い。」

で,「あか」だけではなく「土埃や塵のたまったもの」を意味し,そのメタファで,「けがれ」「はじ」といった意味もある。

『大言海』は,

「和訓栞,アカ『垢を訓むは,汗氣(あせか)の義なるべし』。又或は明(あか)の義,穢を忌みて反対に云ひし語ならむか,鯔(いな)を名吉,梨(なし)をアリノミと云ふ類」

と,確信なげである。『日本語源広辞典』は,

説1は,「梵語アカ(煩悩・けがれ・よごれ)」説,
説2は,「ア(浮)+カ(汚水)」説,

と,二説挙げるが,どうもこじつけに見える。『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/a/aka_yogore.html

は,

「語源は諸説あり未詳で あるが、『アセカ(汗気)』の意味、『アカ(悪所)』の意味、『アクタ(芥)』の略などの説が 妥当であろう。『水垢』や『湯垢』など、水中の含有物が付着したものをいう『垢』の語源 には、仏に供える水やその容器を意味する『閼伽(あか)』と関連付けた説がある。しかし、『水垢』や『湯垢』は、皮膚の垢から派生した語であることや、汚れと仏の水には接点がないため考え難い。」

と,『大言海』の「アセカ(汗気)」を採る。

『日本語源大辞典』には,「汗氣(あせか)」説以外に,

アは接頭語,カはケ(藝)の転(日本古語大辞典=松岡静雄),
アカキ(赤)の転,
ケガレ(汚)の反語アカ(清)(古語類韻=堀秀成・日本語源=賀茂百樹),
アカ(悪所)の義(言元梯),
アクタ(芥)の約か(万葉考),

等々載せる。少なくとも,「赤」はない。色としての赤ではなく,明るいの「アカ」しか和語は持たなかったのだから,「垢」に明るいはない。

こうみてみると,「アセカ(汗気)」説に与したくなるが,気になるのは,

垢,

を「ふけ」とも訓んでいたことだ。普通は,

頭垢,

と当てるのだが。「ふけ」は別途触れるとして,「垢」にかかわる説話がある。

垢太郎(あかたろう),

という。

こんび(垢)太郎,
力太郎(ちからたろう)

とも言うらしいが,

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8A%9B%E5%A4%AA%E9%83%8E

によると,長い間入浴していなかった翁と老婆の垢をかき集め、それを粘土のように固めて人形を作るとそれが超人的能力を持つ人間となる,という物語である。そして,

「老夫婦に百貫目…の金棒を買ってもらい、旅の途中に御堂コ太郎と石コ太郎と出会い、…家来にしながら最終的に長者の娘を生贄につれていこうとした鬼(ただの化け物とする説もあり)を退治するというものである。」

という。

「垢から生まれたこんび太郎、婆のすねから生まれた脛こたんぱこ、竈から生まれた火太郎などさまざまな名を有しているがそれらは一様に力持ちであり、道中家来になるものたちも御堂こ太郎、石こ太郎、岩こ太郎など大力を表す名が多い。」

という。この話の分布はそのほとんどが東北地方に限られており,グリム童話集の「六人組世界歩き」「六人の家来」と同型であり世界的には広く分布する類型,という。これ自体面白いが,

http://suwa3.web.fc2.com/enkan/minwa/momo/00_2.html

に譲る。

参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:04| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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