「う」は,鳥の,
鵜,
烏,
の意である。「烏」(呉音ウ,漢音オ)の字は,
カラス,
の意であり,「鵜」(漢音テイ,呉音ダイ)の字は,
がらんちょう,
つまり,
ペリカン,
を指す。それを「う」に当てるのは,我が国だけである。この字は,
「『鳥+音符弟(テイ 低,背が低い)』。足が短くて背の低い鳥。」
の意である。「烏」の字を当てたのは,「ウ」という音が重なるからと推測できるが,「鵜」の字は,
「水鳥の一種,口ばしが長く,あごの下が大きく膨らんでいる」
というこの鳥を「う」と読み違えたとしか思えない。『大言海』も,
「鵜鶘(テイコ)は,ガランテウなり。亦能く鳥を捕ふるに因りて,字を誤用せらる」
といっている。
「漢字の『鵜』(テイ)は元々中国ではペリカンを意味し、『う』は国訓である。ウを意味する本来の漢字は『鸕』(ロ)である。」(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E7%A7%91)
らしい。しかし,「う」は,
ペリカン目ウ科,
なので,当たらずと雖も遠からず,というところだろうか。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E7%A7%91
には,
「鵜飼い」で知られる漁法は,日本では少なくとも5世紀以降、ヨーロッパでは17世紀以降には行われていた,という。中国はカワウを使うが,我が国ではウミウを使うらしい。
(熊代熊斐『鸕鷀捉魚図』(絹本着色 宝暦5年(1755年)徳川美術館蔵)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E7%A7%91より)
さて,「う」の語源であるが,『日本語源広辞典』は,
「ウ・ウカ(うかがう)」で,「うかがう鳥」の意味です。」
とある。この意味は,鵜の目鷹の目,の「う」という含意を前提にしているように思える。「鵜の目鷹の目」については,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/455510705.html
で触れた。『日本語源大辞典』は,
ウク(浮)の義か(滑稽雑誌所引和訓義解・東雅),
ウム(産)の義(名言通・和訓栞・釣書ふきよせ・言葉の根しらべの=鈴木潔子),
ウヲ(魚)を好むためか(和句解),
ウヲカヅク(魚潜)の約(和訓集説),
ウ(魚)ヲ-ノ(呑)ミの下略(日本語原学=林甕臣),
ウット丸呑みにするから(本朝辞源=宇田甘冥),
クロ(黒)の義(言元梯),
ウは自然に発せられる安らかな音であるため,物をたやすく呑む鳥の意(俗語考),
と諸説挙げるが,どうもいま一つである。確かに,『日本語源大辞典』の言うように,
「一拍語であるため,諸説の判定は難しい」
のは確かだが,音だけの語呂合わせではなく,別のアプローチもあるのではないか。かつて,
「鵜の羽で産屋の屋根をふく風習もあった」(『岩波古語辞典』)
という。それで思い出すのは,
ウガヤフキアエズ(日子波限建鵜草葺不合命・彦波瀲武盧茲草葺不合尊),
の名である。神武天皇の父である。
彦火火出見尊(山幸彦)と、海神の娘である豊玉姫の子,
であり,『古事記』では天津日高日子波限建鵜草葺不合命(あまつひこひこなぎさたけうがやふきあえずのみこと)、『日本書紀』では彦波瀲武鸕鶿草葺不合尊(ひこなぎさたけうがやふきあえずのみこと)と表記される,という。
この場合,鵜の羽の屋根を葺き終わる前に産まれたので,
「鵜茅葺不合命(うがやふきあえずのみこと)」
と名がついた。
http://nihonsinwa.com/page/1050.html
に,
「鵜は大きな口を開けて、食べた魚を吐き出すことから、「安産」の霊力があると考えられている。鵜の羽で「産屋」を葺いたのはそのためかと。」
とある。「鵜」と「安産」と関係があるということは,稲作の豊作祈願とも関わるのではないか。とするなら,「う」は,
産む,
とつなげてみたい気がする。根拠は薄いが,「鵜飼」という漁法が,稲作とともに,中国から伝わったともされるだけに,何となく縁を感じる。
参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95