2018年05月16日

ホトトギス


「ホトトギス」は,『広辞苑』を見るだけでも,

杜鵑,
霍公鳥,
時鳥,

の他,

子規,
杜宇,
不如帰,
沓手鳥,
蜀魂,

と異名を挙げる。「ホトトギス」の異名は挙げてみると,

文目鳥(あやめどり)・妹背鳥(いもせどり)・卯月鳥(うづきどり)・勧農鳥(かんのうちょう)・早苗鳥(さなえどり)・子規(しき)・死出田長(しでのたおさ)・蜀魂(しょっこん)・黄昏鳥(たそがれどり)・橘鳥(たちばなどり)・偶鳥(たまさかどり)・夜直鳥(よただどり)・魂迎鳥(たまむかえどり)・杜宇(とう)・時鳥(ときつどり)・沓手鳥(くつてどり),

等々,凄い数に上る。このうち,「杜宇」「蜀魂」「不如帰」は、中国の故事や伝説にもとづくらしい。

Cuculus_poliocephalus.jpg


https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%88%E3%83%88%E3%82%AE%E3%82%B9

によると,

「長江流域に蜀という傾いた国(秦以前にあった古蜀)があり、そこに杜宇という男が現れ、農耕を指導して蜀を再興し帝王となり『望帝』と呼ばれた。後に、長江の氾濫を治めるのを得意とする男に帝位を譲り、望帝のほうは山中に隠棲した。望帝杜宇は死ぬと、その霊魂はホトトギスに化身し、農耕を始める季節が来るとそれを民に告げるため、杜宇の化身のホトトギスは鋭く鳴くようになったと言う。また後に蜀が秦によって滅ぼされてしまったことを知った杜宇の化身のホトトギスは嘆き悲しみ、『不如帰去』(帰り去くに如かず。= 帰りたい)と鳴きながら血を吐いた、血を吐くまで鳴いた、などと言い、ホトトギスのくちばしが赤いのはそのためだ、と言われるようになった。」

と。なお,平安時代以降には「郭公」の字が当てられることも多いが,これはホトトギスとカッコウがよく似ていることからくる誤りによるものと考えられている。松尾芭蕉もこの字を用いている。『大言海』は,

郭公,

は,「カッコウ」なり,としている。

「ホトトギス」は,そのイメージとは異なり,「ウグイスなどに托卵する習性で知られている,結構えげつない鳥でもある。

http://www.inter-link.jp/back_no/zipang/zipang_18.html

「ホトトギスの習性としてよく知られているのが托卵である。ホトトギスはウグイスなどの巣に卵を産み付け、ウグイスに我が子を育てさせる。驚くのがホトトギスのヒナで、生まれて直ぐにヒナは巣の中のウグイスの卵を背中にのせ巣から放り出すという荒業をやってのける。結果、悲しいかなウグイスは自分の体の2倍の大きさに成長するホトトギスを育て上げることになる。親子そろって非常に狡賢い鳥なのである。」

と。しかしもうひとつ特徴的なのはその鳴き声である。『広辞苑』は,「ホトトギス」の語源を,

「鳴声による名か,スは鳥を表す接尾語」

とする。「カラス」「ウグイス」で触れたことと重なるが,これが妥当なのだろうと思う。『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/ho/hototogisu.html

が,

「ホトトギスの名は,『ホトホト』と聞こえる鳴き声からで,『ス』はカラス・ウグイスなどの『ス』と同じく,小鳥の類を表す接尾語と考えられる。漢字で『時鳥』と表記されることから『時(とき)』と関連付ける説もあるが,ホトトギスの仲間の鳴き声を『ホトホト』と表現した文献も残っているため,鳴き声からと考えるのが妥当であろう。
 江戸時代に入ると,ホトトギスの鳴き声は,『ホンゾンカケタカ(本尊かけたか)』『ウブユカケタカ(産湯かけたか)』,江戸時代後期には,『テッペンカケタカ(天辺かけたか)』などと表現されるようになり,名前が鳴き声に由来することがわかりづらくなった。『トッキョキョカキョク(特許許可局)』という鳴き声は,戦後から見られる。
 ホトトギスには,『杜鵑』『時鳥』『不如帰』『子規』『杜宇』『蜀魂』『田鵑』など多くの漢字表記があり,『卯月鳥(うづきどり)』『早苗鳥(さなえどり)』『魂迎鳥(たまむかえどり)』『死出田長(しでのたおさ)』など異名も多い。

とまとめているのが的確である。「ホトホト」と聞えたのである。『大言海』に,

「歌に『己が名を名のる』と詠める多し」

とあるが,萬葉集の,

「名告り鳴くなる保登等藝須」

等々,名乗っているとみていたものらしい。それにしても,

ホトホト→ホンゾンカケタカ・ウブユカケタカ→テッペンカケタカ→トッキョキョカキョク,

とは聞こえ方の差が大きい。結局ヒトの知覚,認知は,知っているものを聞く,ということだろう。

「『キョッキョッ キョキョキョキョ!』と聞こえ、『ホ・ト・…・ト・ギ・ス』とも聞こえる。」

というのが,その辺の事情を表していなくもない。

鳴声説が大勢だが,その他に,

ホトトキス(火時鳥)の義(柴門和語類集),
梵語から(秉燭譚),

という異説もある。

参考文献;
http://www.inter-link.jp/back_no/zipang/zipang_18.html
https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%81%BB%E3%81%A8%E3%81%A8%E3%81%8E%E3%81%99
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%88%E3%83%88%E3%82%AE%E3%82%B9
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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