2018年05月30日
など
「など」は,
等,
抔,
と当てる。「等」(トウ)の字は,「ら」
http://ppnetwork.seesaa.net/article/459648659.html?1527532850
で触れたように,
「『竹+音符寺』で,もと竹の節,または,竹簡の長さが等しく揃ったこと,転じて,同じものを揃えて順序を整える意となった。寺の意味(役所 ジ・シ)は直接の関係はない。」
で,「ひとしい」「ひとしくそろえる」という意味だが,助詞として,「ほかにも同じものがあることをあらわすことば」とあり,和語「ら」や「など」に当てた意味がある。
しかし,「抔」(漢音ホウ,呉音ブ)の字は,
「不は,まるくふくれたつぼみの形を描いた象形文字。抔は『手+音符不』で,両手をまるくふくらませてすくうこと」
で,「すくう(掬う)」意味である。「など」に当てるのは,我が国だけの用法である。
「など」は,『広辞苑』によると,
「副助詞。『何』に助詞『と』が付いたものの転。平安時代に使われ出した語。本来なかった『などと』の例が,鎌倉時代以後に見られる。」
とし,以下の意味を載せる(『広辞苑』『デジタル大辞泉』)。
①ある語に添えて,それに類する物事が他にもあることを示す。「赤や黄などの落ち葉」「寒くなったのでこたつを出しなどする」
②それだけに限定せずやわらげていう。「お茶など召しあがりませんか」「今インフレになどなったら大変」
③(引用句をうけて)大体そんなことをの意を示す。「断る―とは言っていられまい」
④その価値を低めて言う。相手の言ったことを退ける気持ちで,特に取り立てて示す。否定的反語的表現を伴うことが多い。「わたしのことなどお忘れでしょう」「金などいるものか」
こうみると,「ら」の使い方と似ているだけではなく,こんにちの「とか」とほとんど重なる気がする。
『岩波古語辞典』には,「ナニトの約」として,
nanito→nanto→nando→nado
とし,『日本語源広辞典』は,
ナニト→ナンゾ→ナンド→ナゾ→ナド,
と音韻変化させている。『岩波古語辞典』は「など」は平安時代に生じた語で,
「『鹿島の娘といふところに,守(かみ)のはらから,また他(とこ)人,これかれ酒なにと持て追ひきて』(土佐日記)のような『なにと』がもとの形である。このことからわかるように,『など』は複数を示すものではなくて『大体のところ…である』の意である。また,『一例をあげれば』と訳してあたることが多い。例として示すのであるから,これと明確に限定するものではなく,人の言葉や物事を,ややぼんやりと示すのにも使う。」
とする。つまり,初めは,
例示,
「酒など」という言い方で,「酒を初めとして」という言い回しである。ある意味,状態表現を枚挙せず,代表的な何かを例示したことになる。それが,
「等々」
と,背後に複数存在する含意を持つに至るのは自然である。そこまでは状態表現である。それが価値表現へと転ずると,それ自体が,意味を持つと,その曖昧さは,
婉曲化,
であったり,
謙譲,
であったり,
貶しめ,
であったりする陰翳をもつことになる。ますます「とか」と重なるといっていい。
「とか」は,『広辞苑』によると,
「と」も「か」も並立を表す助詞,
で,
①例示し,列挙するのに用いる,例示する事項の後に~「とか」を付けるのが本来の使い方だが,最後の例示の後に付けないことがある。「雪とか雨とか」「地位とか名誉」
②一つの物事だけを挙げ,他を略して言う,またはそれと特定しないで,言う表現。「コーヒーとか飲んだ」
格助詞「と」に係助詞「か」が付いたもの(多く「言う」「聞く」等々を伴う,
で,
内容が不確かである意を表す。「うまくいったとかいうことだ」「結婚したとか」
とあが,二者を区別しなくても,「とか」が,例示から曖昧化へと転じていくのは良く見える。この「とか」は,最近の使われ方かと思うと,
海原(うなはら)の沖行ゆく船を帰れとか領巾(ひれ)振らしけむ松浦佐用姫(まつらさよひめ)」(万葉集 八七四)
は,
〔(文中にあって)不確定な推量を表す〕…と…であろうか。
とし,さらに,
「琴(きん)はた、まして、さらにまねぶ人なくなりにたりとか」(源氏物語 若菜)
に,
〔(文末にあって)伝聞を表す〕…とかいうことだ。
という用例がある(『学研全訳古語辞典』)。さらに,「とか」を,
格助詞「と」+係助詞「か」
が成り立ちと,している(仝上)。
ということは,「など」が例示から曖昧化していったのとは異なり,「とか」は,初めから,
不確かな伝聞・推測,
からスタートしているという意味では,「とか」が今日,いろいろな形の曖昧表現に多用されるのは,元々の意味を引きずっているといっていいが,むしろ,その「とか」の含意を使って,はっきり分かっていることでも,
とか,
と使うことで,ある場合は,
婉曲,
になり,ある場合は,
謙譲,
にもなる意味の翳をうまく使っているともいえる。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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