2018年06月01日
てる
「てる」は,
照る,
と当てる。「照」(ショウ)の字は,
「召は『口+音符刀』からなり,刀の刃の曲線のように,半円を描いて招きよせること。昭は『日+音符召』の会意兼形声文字で半円を描いて,右から左へと光りがなでること。照は『灬(火)+音符昭』。昭が明らかの意の形容詞にもちいられるため,さらに火を加えてすみからすみまで半円形にてらすことを示す。」
とある。「遍く照らす」といった含意でり,あえて言えば,照らす主体からの視点と見ていい。
「てる」は,
太陽や月が光を放つ,
晴れる,
光を受けて美しく輝いて見える,映える,
(面照るの略)能楽で,顔面が少し上向きになるのをいう(対は曇る),
とどちらかというと,状態表現である。他の辞書には載らないが,『学研全訳古語辞典』に,
とる(照る),
が載る。
「てる」の上代の東国方言,
として,万葉集の,
日がとれば雨を待(ま)とのす君をと待とも
が載る。
さて,「てる」の語源について,『大言海』は,
「テラテラする意」
とある。『擬音語・擬態語辞典』は,
「てらてら」について,
「『照る』の未然形『てら』を重ねてできた語。すでに室町時代には使われ,夕陽や月が『てらてら』輝くと表した。
一方,連用形『てり』を重ねた『てりてり』という語も室町時代に見られた。『絹のてりてりと光色のあるに』(四河入海)」
とある。素人が言うのもおこがましいが,普通は逆ではあるまいか。
てらてら,てりてり→てる,てり,
と動詞化するのではあるまいか。『日本語源広辞典』は,
「テ(つや・光)+ル(動詞化)」
としている。『日本語源大辞典』は,
タヘ(妙)の反テを活用したもの(和訓栞),
足りて余光のある意からタル(足)の義(日本語源=賀茂百樹),
ツテアル(伝有)の義(名言通),
光を形容した語テラを活用したもの(国語の語根とその分類=大島正健),
テラテラと光る意から(国語溯原=大矢徹),
テンハルル(天晴)の義(和句解)
とあるが,どうも,
テラテラと光る,
という擬態語が気になる。「照る」に似た言葉に,
きらめく(煌めく),
かがやく(輝く),
がある。「きらめく」は,「きら」からきている。「きら」は,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/449864898.html
で触れたように,
キラキラと見えるもの,また光のきらめき,
の意であるが,また,その状態から,
雲母(うんも),
を指す。あるいは,モノとしての雲母から,「きら」という言葉ができたのかもしれない。雲母は,
きらら,
とも呼ぶ。『大言海』には,
「煌煌(きらきら)の約。うらうら,うらら。きはきは,きはは」
と載る。雲母の「きらら」自体が「きらきら」という状態をそのまま名づけたように見える。「かかやく」も,
カガ・カガヤ(眩しい・ギラギラ)+ク(日本語源広辞典),
カガは赫,ヤクはメクに似て発動する意(大言海)
カクエキ(赫奕)の転(秉穂録),光の目に強く感ずるさまと,カ音の耳に強く感ずる趣の相似ていることから(国語溯原=大矢徹),
等々と,擬態語からの動詞化,形容詞化への変化とみられる。とすると,類似語「てる」も,
テラテラ・テリテリ→テル,
という変化と見たいが,どうだろうか。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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