2018年06月03日

おどし


「おどし」は,

縅,

と当てる。

鎧の札(さね)を糸または細い革で綴ること,

である。

赤絲威(あかいとおどし)鎧,

等々といったりする。『平家物語』には,

「朽葉の綾の直垂に、赤革縅の鎧着て、高角打つたる甲の緒をしめ」

といった表現が載る。『広辞苑』は,

「『緒通し』の意。『縅』は国字。もと『威』と当てた」

とある。『漢字源』には,

「『糸+威』。をどしは,もと『緒通し』の意。意がおどし(威)に近く,また武具の部品であるので,『緒通し』を『威し』と考えてつくった字。威の訓を音符とした日本製の漢字」

とある。

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(『図説戦国甲冑集』より)


とすると,『日本語源広辞典』の,

「鎧の札(サネ・鉄薄板)を,糸や革で綴ることをいいます。威光を示す意味から,次第に威しと意識されるようになった」

という説明は,前後が逆である。最初から,「威し」の意を含めて,「縅」の字を作っているのだから。

因みに「威」(イ)の字は,

「『女+戊(ほこ)』で,か弱い女性を武器でおどすさまを示す。力で上から抑える意を含む」

とある。「戊」(漢音ボ,呉音ム)は,十干の「つちのえ」だか,

「戉(エツ まさかり)に似た武器を描いたもので,その根元の穴が柄にかぶさるので,ボウ(=冒)という。のち十干の序数に当てられたため,原義は忘れられた。戈の一種で,矛(ボウ 突く武器)とは形が異なる。」

とある。

札(さね)は,『広辞苑』には,

「鉄または練革(ねりかわ)で作った鎧の材料の小板。上部を札頭(さねがしら),下部を札足(さねあし)と言う。これを横に重ねて革緒でからみ,糸または革の緒で縦に数段縅(おど)す」

とある。こうみれば,「おどし」は,

緒通す,

で決まりのようだが,異説はある。

鎧の威の毛色で敵をおどすという意から(安斎雑考・両京俚言考),

とある。しかし,

安斎雑考,

は,江戸中期の有職故実研究書,

両京俚言考,

は,江戸中期の国語辞典,である。いずれも,江戸期というところが鍵のようである。『図説日本甲冑武具事典』は,

「鎧の札板を上から下へ連接することをいう。江戸時代には『威し』の意味にしているが,『緒通し』の転訛である。」

としている。こんなものを「威し」とするほどに,江戸時代は戦いと無縁であったということかもしれない。

参考文献;
伊澤昭二監修『『図説戦国甲冑集』』(学習研究社)
笠間良彦『図説日本甲冑武具事典』(柏書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)

ホームページ;
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コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
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書評
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posted by Toshi at 03:32| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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