2018年06月07日

まこと


「まこと」は,

誠,
真,
実,
信,


等々と当てる。『広辞苑』『岩波古語辞典』『大言海』に,

「ま(真)こと(事・言)の意」

とある。かつて,「言」は「事」であったので,「こと(事・言)」としている,と見ていい。『岩波古語辞典』には,

「古代社会では口に出したコト(言)はそのままコト(事実・事柄)を意味したし,また,コト(出来事・行為)は,そのままコト(言)として表現されると信じられていた。それで,言と事は未分化で,両方ともコトという一つの単語で把握された。従って,奈良・平安時代のコトの中にも,言の意か事の意か,よく区別できないものがある。しかし。言と事が観念の中で次第に分離される奈良時代以後に至ると,コト(言)はコトバ・コトノハといわれることが多くなり,コト(事)と別になった。コト(事)は,人と人,人と物の関わり合いによって,時間的に展開・進行する出来事,事件などをいう。時間的に不変の存在をモノという。」

とある。

『日本語源広辞典』にも,

「『眞事,眞言,正事,正言』の文字通りです。正しい事実,正しい言葉,いずれもマコトである。うそごまかしのないこと。副詞のマコトニは同源です。日本人は,マコトの微妙な違いは,中国語源で区別しています。」

とある。この使い分けは,

信は,信実と熟す。間違いなき義。實より軽い,
眞は,ほんまにと訳し,偽の反と註す,うぶのままにてすこしもつくろわざる義,天真,性真などと熟す,
誠は,詐の反。眞と同用,眞誠と熟するにても知るべし,
實は,虚の反,充満して欠ける無きをに云ふ,
忠は,真心,心の中心,汚れなき心,

とある(『字源』)。

「信」(シン)の字は,

「言は,言明(はっきり言う)の意。信は『人+言』で一度言明したことは押し通す人間の行為を表す。途中で屈することなく,まっすぐのび進の意を含む。信義の信はその派生語」

「眞(真)」(シン)の字は,

「『匕(さじ)+鼎(かなえ)』で,匙(さじ)で容器に物を満たすさまを示す。充填の填(かけめなくいっぱいつめる)の原字。實(ジツ)はその語尾が入声(つまり音)に転じた言葉」

「誠」(漢音セイ,呉音ジョウ)の字は,

「成(セイ)は『戈(ほこ)+音符丁(とんとうつ)』からなり,道具でトントンと打ち固めて城壁をつくること。かけめなくまとまるの意を含む。誠は『言+音符成』で,かけめない言行。」

「實(実)」(ジツ,漢音シツ,呉音ジチ)の字は,

「『宀(やね)+周(いっぱい)+貝(たから)』で,家の中に財宝を一杯満たす意を示す。中身が一杯で,欠け目がないこと,また,真(中身がつまる)は,その語尾がnに転じた言葉」

「忠」(チュウ)の字は,

「中とは,なか・中身などの意。忠は『心+音符中』で,中身が充実して欠け目のない心」

とある(『漢字源』)。

漢字では,

實>信,
真⇔偽,
誠⇔詐,
實⇔虚,

と使い分けていることになるが,微妙に日本語とは違うかもしれない。日本語では,

事実の通りであること,嘘でないこと,
偽り飾らない情,

と『広辞苑』には意味が載る。

本来は,

マ(真)+コト(言・事),

と,言葉と事実は区別されないにしろ,

言ったこと,
と,
行ったこと,

とは重なった意味で,あくまで,状態表現であった。しかし,コトが,言と事と区分するようになると,マコトは,心の問題へとシフトしていく。

『学研全訳古語辞典』によると,「まこと」は,

「日本の文芸全般を通じての、根本的な美的理念。真実の姿・感情を尊重し理想とする精神で、感情と理性とが自然に一体となった境地のこと。特に『万葉集』を中心とする上代文学に見られ、文学用語としては『古今和歌集』の仮名序に現れるのが最初。平安時代の『もののあはれ』や、中世の『幽玄』などの美的理念の基調ともなった。江戸時代の俳論や歌論などにもしばしば説かれ、その根底になっている。」

としている。

「真実の姿・感情を尊重し理想とする精神で、感情と理性とが自然に一体となった境地のこと。」

とは,

「世に語り伝ふること、まことはあいなきにや、多くはみな虚言(そらごと)なり」(徒然草)
「あづま人こそ、言ひつることは頼まるれ。都の人は、ことうけのみよくて、まことなし」(仝)

と,しかし,それ自体が,

虚実の境,

の絵空事(虚構)に思えるが

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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