2018年06月09日

やぶれかぶれ


「やぶれかぶれ」は,『江戸語大辞典』は,

破れ被れ,

と当てている。

やけを起こし,自暴自棄であるさま,
望みを失いやけな振舞に出ること,

といった意味である。『日本語俗語辞典』

http://zokugo-dict.com/36ya/yaburekabure.htm

に,

江戸時代から,

とあるように,『江戸語大辞典』に,

「サア殺せ,やぶれかぶれの捨て鉢も」

と。文政時代の用例が載る。『日本語俗語辞典』には,

「やぶれかぶれとは自棄になることや自暴自棄なさまを表す言葉だが、破れかぶれと書く通り、単に自棄になるというより、何かに破れ(=敗れる)たり、失敗したり、思い通りにいかないなど、物事が悪い方向へ向いてしまったことによる際に使われる。警官に囲まれた犯人が凶器を無闇に振り回すさまなどがこれに当たる。また、時代劇で悪人に捕まった町人が『こうなったらやぶれかぶれだ。煮るなり焼くなり好きにしやがれ』といったセリフを言うことがある。このように『開き直り』、さらに『居直り』といった意を含んで使われることも多い。」

と説明されるが,語源が定かではない。「破れ」はいいとして,『江戸語大辞典』以外は,

被れ,

と当てる例はない。

https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q10125350065

は,

「『やぶれ』の『破れる』は物事が成立しないことで『破綻』の意のほか、『負ける』の意の『敗れる』もあり、『かぶれ』は接尾語的に用いて、『その影響を強く受けて悪く感化されること』を表すので、負けたりして破綻した人がその影響を強く受けて、どうにでもなれという気持ちになることからでしょうか。」

とある。『岩波古語辞典』の「破る」には,

「破る」は,

「固いもの,一つにまとまっているものなどの一部分を突いて傷つけ,その全体をこわす意。類義語ヤリ(破)は,布などの筋目を無視して引きちぎる意。サキ(割)は切れ目から全体を引き離す意」

とあるが,その自動詞形「破れ」には,破綻の意味もあるが,

崩れ乱れる,

という意味がある。自動詞の用例に,

やぶれかぶれ,

が載る。その意味で,「破れ」は,

崩れ乱れる,

意味があるが,その背景には,

敗れ,
ダメになる,

といった意味の陰翳があるように思える。「被れ」の「被る」は,

カガフリ→カウブリ→カブリ,

と転訛している。「被る」にも,

頭の上に被う,

という意味だけではなく,

しくじる,失敗する(多く主人や親に対して),

という意味がある。ここから億説だが,

(戦に)敗れて(主人に対して)失敗した,

という状態表現が,価値表現へと転じ,そのことの絶望的な状況から,自暴自棄の表現へと転じた

(戦に)敗れて(主人に対して)失敗した→絶望的状態→自暴自棄,

という変化と見たが,どうであろうか。

「なげやり」の項,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/454889115.html

で触れたように,類義語「投げやり」が,

投げ遣り,

で,

投げ捨てる,

という意味で,そこから,

投げ捨てておくこと→結果はどうなっても構わない→物事をいいかげんに行うこと→成り行き任せ→無責任,

といった意味の,状態表現から価値表現への変化とよく似ている。似た言葉の「捨て鉢」は,

http://yaoyolog.com/%E3%80%8C%E3%81%99%E3%81%A6%E3%81%B0%E3%81%A1%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%81%AF%E3%81%A9%E3%81%86%E3%81%84%E3%81%86%E6%84%8F%E5%91%B3%EF%BC%9F%E3%81%BE%E3%81%9F%E3%81%9D%E3%81%AE%E8%AA%9E%E6%BA%90%E3%81%A8/

に,

「ここでいう『鉢』とは、お坊さんが一般家庭を回って食べ物などを分けてもらう『托鉢(たくはつ)』に使う鉢の事を指しているのだそうです。中には托鉢に対して否定的な方もいらっしゃるようで、ひどい罵声を浴びせられることもあったのだとか。そのような事も含め、辛い修行を投げ出しドロップアウトする事を、『鉢を捨てる』と例えたところから、『捨て鉢(すてばち)』と言う様になったのだそうです。」

とあるが,

https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%81%99%E3%81%A6%E3%81%B0%E3%81%A1

に,

「修行僧が、唯一有することを認められる鉢を捨てて修行を投げ出すことから、との説があるが、有力な出典はなく、又、『鉢』の字を当てるのは明治以降であって、江戸期は『捨罪(「罰ばち」の誤りか?)』などの記法もあり、語源俗解の疑いがある。『すてっぱち』の例もあり、『やけっぱち』『やけのやんぱち』『うそっぱち』等にみられる『はつ(=はてる)』に由来する『はち、ぱち』を、『すてる』に付し、強調したものではないか。」

とあるので,鉢であるかどうかは疑わしいが,「投げ捨てる」ということにウエイトがある。となると,「なげやり」と含意は重なる。

さらに,類義語「やけくそ」は,『日本語源大辞典』が,

「火災などで焼損した貨幣を焼金(やけがね)・焼錢(やけぜに)といい,略して『焼け』と呼んだ。表面の文字が焼けただれて不分明となり,撰銭(えりせん)の対象として排斥されたことから,『焼けになる』の語と関係があるか。」

としている。『江戸語大辞典』の「焼け」の項には,「自暴自棄」の意味の他に,

焼金(やけがね)・焼錢(やけぜに)の略,

が載る。「棄てざるをえない銭」から来たというのが語源なのかもしれない。因みに,

焼けのやん八,
焼けの勘八,

という言い方は,『江戸語大辞典』によると,

「『やけ』の縁語で,『かんぱちこ』(カラカラに乾いたさま)と言い続け,それを人名に模した語」

とある。で,自棄(やけ)度は,

なげやり→すてばち→やけくそ→やぶれかぶれ,

と高まっていく,と見たがどうであろうか。

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 06:09| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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