2018年06月11日
あおる
「あおる」は,
煽る,
と当てるが,
風や火の勢いで物を動かす,
物を前に進めようと手や足を動かす,
そそのかす,
鐙で泥障(あおり)を蹴って馬を急がせる,
写真撮影で低い位置からカメラを上向きにする,
等々の意味がある。『由来・語源辞典』
http://yain.jp/i/%E7%85%BD%E3%82%8B
は,「煽る」の語源を,
「もとは、乗馬で、鐙(あぶみ)で障泥(あおり)を蹴って馬を急がせることをいった。障泥は、馬の両脇腹を覆う革製の泥除けのこと。」
とする。『岩波古語辞典』も,「あふ(煽)り」の項で,
鐙で馬の原を蹴って進ませる,
風などが吹き動かす,
と意味を並べている。『日本語源大辞典』も,
「鐙で馬の泥障(あおり)を蹴って急がせる」
と載せる。「あおり」は,
障泥,
泥障,
と当てる。「泥障」は,
鞍の下に切付(きりつき)・肌付(はだつき)という韉(したぐら)を載せる。泥障は革製のものを言い,切付が小型化したため,鐙は重みで内屈して乗りにくくなるので,それを支えるために堅い革板を垂れたのが始まりであり,また鐙で馬に合図するのに,重い鐙で馬腹を傷つけるのを防ぐために付けた,
とされる。室町時代末期,つまり戦国期に流行した,という。しかし,『大言海』は,「あふる」について,
「あふる(翻る)」 あふぐ(扇ぐ)の自動詞。風に吹かれて動く,
「あふる(煽る・翻る)」 「あふ(翻)るの他動詞。吹き動かす。
「あふる(足触る)」乗馬して両の鐙にて馬の両脇を挟み打つ,
と,別項を立てる。「あふる(足触る)」は,
「足触(あしふ)るの略(足塞(なへ)ぐ,あなへぐ)。名詞形に足觸(アフリ,障泥と云ふ,四段活用の,触るなり。自動を他動に用ゐる…,アオルと発音するは,倒(たふ)る,たおる。扇(あふ)ぐ,あおぐの例なり)
とある。
『日本語源大辞典』に,「あおる(煽る)」の語源は,
アシフル(足振)か(名語記),
アシフル(足觸)の略(大言海),
「あおり(泥障)」の語源は,
アオ(煽)ルの連用形から(広辞苑),
アフル(足触)の名詞形(名語記・東雅・大言海),
アブミスリの中略であろう(類聚名物考),
アハリ(足張),またはアヲリ(足折)の義(日本釈名),
馬に乗る時のに足を折りかがめる意のアヲリ(足折)からか(和句解)
等々あるが,普通に考えれば,
アフル(足触),
だろう。しかし,それと,
あおる(煽る),
という言葉の,
風や火の勢いで物を動かす,
物を前に進めようと手や足を動かす,
そそのかす,
という意味とはつながらない。腹を蹴って,馬に合図するのは,進めという意ではあっても,必ずしも「煽る」意ではない。「煽」(セン)字は,
「扇は,『戸+羽』の会意文字で,門に付けられた羽のような扉をあらわし,扉に似た形をしてぱちぱちと風をあおるうちわもあらわす。煽は『火+音符扇』で,火をあおること」
で,明らかに,
扇ぐ,
意である。それなら,
煽る,
に通じる。『日本語源広辞典』は,
「アフル(風を起こして物を動かす)です。」
とし,それが,
呷る,
にも通じるとする。これが正解だろう。因みに,「アオリイカ」の「アオリ」とは,
泥障,
の意である。「幅広いヒレ」が泥障(あおり)に似ているからとか。
参考文献;
笠間良彦『図説日本甲冑武具事典』(柏書房)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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