「はれる」(はる)は,
晴れる,
霽れる,
と当てる。
雲や霧が消えて去ってなくなる,
雨や雪が降りやむ,
とい意味だが,それをメタファに,
心のわだかまりが解けさる,
疑いなどが解けて潔白になる,
視界が開ける,
といった意味にも使う。『岩波古語辞典』の「はれ」の項には,
「ハラ(原)と同根か。ふさがっていた障害となるものが無くなって広々となるさま」
とある。「はら(原)」
http://ppnetwork.seesaa.net/article/455267128.html
の項で触れたように,「腹」の語源の一つには,「ハラ(原)」があり,人体の中で広がって広いところ,の意,という説がある。『大言海』は,
「廣(ひろ)に通ず,原(はら),平(ひら)など,意同じと云ふ。又張りの意」
とし,「原」の項では,
「廣(ひろ),平(ひら)と通ず。或いは開くの意か。九州では原をハルと云ふ。」
とある。これは,『岩波古語辞典』の,
「ハラ(原)と同根か。ふさがっていた障害となるものが無くなって,広々となる意」
と通ずる。面白いのは,『大言海』は「はる」の項で,
墾,
治,
という字を当てるものは,
「開くの義,開墾の意,掘るに通ず」
とし,
晴,
霽,
の字を当てるものは,
「開くの義,履きとする意」
として,いずれも「開く」につながるのである。その意味は,
パッと視界が開く,
晴れ晴れ,
という感じと似ているが,それは,
開いた(開墾した),
という含意があることらしい。つまり,開く(開墾する)ことで,開けたという意味である。
『大言海』の「はる(晴る・霽る)」に,
「開(はる)くの義。はきとする意」
通ずる気がする。「はるく」
開く,
は,
晴れる,
意とある。『日本語源広辞典』に,「晴れ」について,
晴・墾・原と同源,
とし,
「空に障害物,雲,霧などがなく,ハレバレとした様」
とあるのも同旨である。
(雲一つない青空 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9D%92%E7%A9%BAより)
『日本語源大辞典』には,
ハルカアル(遥有)の転か(名言通),
ハル(発)の義(言葉の根しらべの=鈴木潔子),
ハルク(開)の義(大言海),
ハアル(開生)の義(国語本義),
ハラフ(払)の義(言元梯),
払い除けられたように散る意から(国語の語根とその分類=大島正健),
ハル(墾)・ハラ(原)と同根か(岩波古語辞典),
とあるが,「開く」という感覚が,一番しっくりくる。『岩波古語辞典』が「晴れと同根」とする「はるか」を,『大言海』は,
開處(はるか)の義,
とするが,それも「開く」ところから来ているとみていい。
『日本語源広辞典』は,「はるか」について,
「ハル(ハルバルの意)+カ(接尾語)」
で,遠く離れた状態をあらわす,という。もとは,空間的な意味だが,時間的にも使う,とある(『岩波古語辞典』)。その,
人からの遥かに離れた感覚,
が,
広がり,
を感じさせ,
はるけき,
はるかす,
といった遠い感じだけでなく,視界が開く感じにも,意味はつながっていく。「はるか」に開いた「晴れ」だからこそ,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/455267128.html
で触れたように,「ハレ(晴れ、霽れ)」は,普段の生活である「日常」(「ケ(褻)」)の軛から脱するとき開放感を表してしている。僕には,
はれ,
はるか,
はるばる,
は,そういう気分や状態を表す擬態語だったのではないか,という気がしてくる。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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