2018年06月17日

天児


「天児」は,

あまがつ,

と訓む。

天倪,
尼児,

とも当てる。『広辞苑』には,

古く。祓(はらえ)に子供の傍に置き,形代(かたしろ)として凶事をうつし負せるために用いた人形。」

とある。『人形事典』には,

「平安時代からある。形代から進歩したもので、十文字形に作った棒の上部に、きれでくるんだ顔をつけた小児の祓いに用いられるもので、日本の人形の祖型の一つである。」

とある。

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(『人形事典』 https://www.weblio.jp/content/%E5%A4%A9%E5%85%90より)


『日本大百科全書(ニッポニカ)』には,

「幼児の守りとして身の近くに置き、凶事をこれに移し負わせるのに用いる信仰人形。幼児用の形代(かたしろ)として平安時代に貴族の家庭で行われた。『源氏物語』などの諸書には、幼児の御守りや太刀(たち)とともにその身を守るまじない人形の一種として登場する。1686年(貞享3)刊の『雍州府志(ようしゅうふし)』(黒川道祐(どうゆう))によると、30センチメートルほどの丸い竹1本を横にして人形の両手とし、2本を束ねて胴として丁字形のものをつくり、それに白絹(練り絹)でつくった丸い頭をのせる。頭には目鼻口と髪を描く。これに衣装を着せて幼児の枕元(まくらもと)に置き、幼児を襲う禍(わざわい)や穢(けがれ)をこれに負わせる。1830年(文政13)刊の『嬉遊笑覧(きゆうしょうらん)』(喜多村信節(きたむらのぶよ))には子供が3歳になるまで用いたとある。天児を飾ることは室町時代に宮中、宮家などで続いてみられ、江戸時代には民間でも用いられるようになった。また天児と同じ時期に発生した同じような人形に縫いぐるみの這子(ほうこ)があり、江戸時代に入ると天児を男の子、這子を女の子に見立てて対(つい)にして雛壇(ひなだん)に飾り、嫁入りにはこれを持参する風習も生まれた。」

と詳しい。「這子(ほうこ)」は,

はいこ,

とも訓み,文字通り,

這っている人形,
幼児の這い歩く姿をかたどった人形,

である。

御伽(おとぎ)這子,

とも言った。『人形辞典』には,「這子・婢子」と当てて,

「平安時代(794~1192年)からある小児の遊び物。はじめは天児と同様、小児の祓いの人形だった。首と胴は綿詰めの白絹、頭髪は黒糸、這う子にかたどってあるので、こう名付けられた。別名をお伽婢子(ほうこ)ともいう。」

とある。将に,人形のはしりである。

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「天児」と「這子」は,『大辞林』には,

「古代,祓(はらえ)に際して幼児のかたわらに置き,形代(かたしろ)として凶事を移し負わせた人形」

であった「天児」が,

「後世は練絹(ねりぎぬ)で縫い綿を入れて,幼児のはうような形に作り,幼児の枕頭においてお守りとした這子(ほうこ)をいうようになった。」

とある。

「孺形(じゆぎよう)」

ともいうらしい。 「形代」とは,

「神霊が依り憑く(よりつく)依り代の一種。人間の霊を宿す場合は人形を用いるなど、神霊が依り憑き易いように形を整えた物を指す。」

元々は,神を祭る際に,神霊の代わりとして据えたもの,

を指すが,みそぎ・禊(はらえ)などに用いた人形(ヒトカタ)を指すようになる。で,

「人の身についた穢れや厄を託して,海や川に流すもの。神霊の依代 (よりしろ) の一種と考えられている。多くは紙の小さな人形 (ひとがた) であるが,ところによってはわら人形や,食物に託すこともある。鳥取県の流し雛も形代の一種で,川に流したり,氏神様の境内に納めたりする。疫病神や悪霊の依代とされて,毎年村境に送られるわら人形や,神聖なものとされている削り掛けや鏡,玉,臼,杵なども形代の一つである。しかし一般には,なで物といわれる,穢れを託して送ってしまうものをさす場合が多い。」(ブリタニカ国際大百科事典)

さて,では「天児」の語源は,何か。『大言海』は,

「春雨抄(寛永)に,天兒,源氏物語,河海抄に,尼兒と記せり。或は,天聞勝(あまかつ),天目勝(あまかつ)などともあり,語原詳ならず。先輩の明解も索め得ず,強いて言はば,天禍津靈(アママガツビ)の約略(河津蛙[かはずかへる],河蝦[カハズ]。秋津蟲,蜉蝣[あきつ])。禍津靈を負はする物の意か。牽強ならむか,再考に付す」

と,苦しげである。

『日本語源大辞典』には,

目勝(アマカツ,あるいはマナカツとよむか)の義,一説にアヅマワラハ(東豎子)を模すともいう(和訓栞),
アマガメ(天母形)の転(嬉遊笑覧),
アメガチコの約転(貞丈雑記),
アマガツ(天勝)の義(名言通),
オモガタ(母像)の転か(日本語源=賀茂百樹),

と諸説載るが,確かに苦しい。

天兒,

は当て字なので,ここから探るのは難しいのだろうか。

なお天児(あまがつ)と這子(ほうこ)については,

https://www.hinaningyou.jp/know02.html

に詳しい。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:02| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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