「ほうき」は,
箒,
帚,
と当てる。「帚」(ソウ,漢音シュウ,呉音ス)は,
「柄つきのほうきうを描いたもので,巾(ぬの)には関係がない。巾印は柄の部分が変形したもの。掃(ソウ はく)・婦(ほうきをもつ嫁)の字の右側に含まれる。」
とある。「箒」(ソウ,漢音シュウ,呉音ス)は,帚の異体字。
「ほうき」は,ほとんどの辞書が,
ハハキの転,
としている。『日本語源大辞典』は,
「語形としては『十巻本和名抄-四』『色葉字類抄』『観知院本名義抄』などには『ハハキ』とある。節用集や下學集の中には『ハハキ』『ハワキ』とするものがあるが,室町時代には『ハウキ』が優勢となっていた。『日葡辞典』では,『Foqi(ハウキ)』となっている一方,『fauaqigui(ハウキギ)』『tambauaqi』(タマバワキ)などハワキの形も見られる。」
と,語形変化を説く。
ハハキ→ハワキ→ハウキ・ハワキ→ホウキ,
といった変化であろうか。
「ははき」は,『岩波古語辞典』に,
「羽掃きあるいは葉掃きか」
とある。『日本語の語源』は,
「落葉を掃き寄せる道具をハハキ(葉掃き)といったのがホホキ・ホフキ・ホウキ(箒)になった」
としている。『由来・語源辞典』
http://yain.jp/i/%E7%AE%92
「もとは鳥の羽を用いたことから、『羽(は)+掃(は)き』と考えられる。」
とする。
(箒(下鴨神社・京都市左京区)https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%81%BB%E3%81%86%E3%81%8Dより)
羽掃き,
か
葉掃き,
かの断定は難しそうだ。ただ,
https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%81%BB%E3%81%86%E3%81%8D
には,
「『ほうきで掃く』を意味する動詞『ははく(>はわく)』の連用形名詞化。」
「羽箒を用いた掃き掃除を意味する『ははき(羽掃き)』から転じた言葉とも。」
とあるので,あるいは,用途に応じて,素材を変えていたということも考えられる。たとえば,
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AE%92
には,
座敷箒(ざしきぼうき)
土間箒(どまぼうき)
庭箒(にわぼうき)
荒神箒(こうじんぼうき)
茶道具の羽箒,
等々がある。
http://azumahouki.com/know/history/
には,
「古くは実用的なお掃除道具ということ以上に、神聖なものとして考えられており、箒神(ははきがみ)という産神(うぐがみ、出産に関係のある神様)が宿ると言われていました。日本最古の書物『古事記(712年 奈良時代)』には、『玉箒』や『帚持(ははきもち)』という言葉で表現されており、実用的な道具としてではなく、祭祀用の道具として登場しています。」
とあり,荒神箒は,その名残りかも知れない。『世界大百科事典 』には,
「正倉院には、養蚕儀礼用ではあるが、『子日目利箒(ねのひのめのとぎぼうき)』という奈良時代の箒が残っている。これはキク科のコウヤボウキの茎を束ねて根元を革紐(ひも)で結んだもので、ガラスの小玉の飾りがついており、柄はついていない。また、民俗的な伝承が多く、妊婦の腹を箒でなでたり、産室にこれを立てておくと安産になるといった出産に関する信仰が古くからある。これは古くは産室にカニをはわせる習慣があり、そのために箒を使ったことからきており、カニの脱殻作用を霊肉の更新と結び付けた古代人の信仰によるものといわれる。」
ともある。『日本語源大辞典』には,
「『古事記上』に,天若日子の死に際して鷺を『箒持(ははきもち)』としたことが述べられ,『古語拾遺』(嘉禄本訓)には豊玉姫命の出産に際して天忍人命が『箒(ははき)』で蟹を払ったことが記されている。後世箒を逆さに立てて長居の客を帰すまじないにもみられるように,『ほうき』は呪術的な意味を持つ道具であったことがわかる。」
とある。もともと「掃く」という行為は,浄めるという含意がある。「掃く」こと自体が,特別な動作だったのかもしれない。その道具「ほうき」も特別な物だったといっていい。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95