2018年06月20日
あまい
「あまい(あまし)」は,
甘い,
と当てる。「甘」(カン)の字は,
「『口+・印』で,口の中に・印で示した食物を含んで味わうことを示す。ながく口中で含味する。うまい(あまい)物の意となった。」
とある(『漢字源』)。これを見ると,漢字字体に,
味覚の甘さ,
と同時に,
うまい,おいしい,
とい意味が入っていることがわかる。ただ,日本語で言う,
脇が甘い,
天が甘い,
子供に甘い,
等々といった「厳しくない」という意にまで,メタファとして使うのは,我が国だけのようである。
『大言海』は,「あまし」に,
甘し,
甜し,
を当てる。「甜」(漢音テン,呉音デン)は,
「『甘(あまい)+舌』で,舌にへばりつくようなあまさ」
とある(『漢字源』)。「ねっとりとあまったるい」意なので,甘味が濃厚といことだろか。この字にも,「うまし」(美味)の意がある(『字源』)。
『大言海』は,「あまし」は,
「旨(うま)しと通ず」
とする。『語源由来辞典』
http://gogen-allguide.com/a/amai.html
も,
「甘い味は『美味』の意味で多く用いられることや、熟した果実の甘い味を『うまい』と表していたことから,『うまい(うまし)』が転じて『あまい(あまし)』になったと考えられる。また,『あじ(味)』の『あ』は『あまい』の『あ』に通じるため,『あ』の音に『味わい』の意味があり,『うまい』と合わさったとも考えられる。味覚を表す他の語と同じく『甘い』も時代が新しくなるにつれ,味覚以外に様々な表現に用いられるようになった。」
うまし→あまし,
とする。あるいは,大括りな「うまい」という表現から,味覚の甘さだけが分化して,
あまい,
と際立ったのかもしれない。実際,『岩波古語辞典』の「うまし」は,
甘し,
旨し,
美し,
を当てる。美味の旨いから味覚の甘いに焦点があわされ,それをメタファに,優れているという価値表現へと転じ(うまし國),巧み,さらに,(技倆が)優れている,上手(「巧い」「上手い」)の意味へと転じていく。旨い,甘い,が心持へ,更に技倆へと拡大された。
『日本語源広辞典』も,
「『ウマシとアマシ』は,語源が近いというのが大言海の説です。そうした『甘美な物を食べる口形から出た語』であろうというのが有力な語源説です。方言で,アマー,アミャー,ウミャーなどという言葉が生きています。アマエル,アマヤカスも同源の動詞です。」
とする。しかし,「うまい」については,三説挙げる。
説1は,「ウム(熟むの未然形)+シ(形容詞化)」。果実の熟した味の良さをいう形容詞で,後にアマイと混用した,
説2は,「倦む+シ」。飽きるほどの味の良さをいう,
説3は,「ウ(大)+マ(間)+シ」。たいそう立派な空間の意味(うまし國等々)。後に,良い,美味に転じた,
『日本語源大辞典』は,「うまい」の語源を,
ウマは,熟した果実の味をいうウム(熟)から。アマシと通じる語か(日本釈名・国語の語根とその分類=大島正健),
ウミシキ(熟知)の義(名言通),
アマシと同源(和句解),
クハシ(妙)の転(言元梯),
アマムカハシキ(甘向及)の約転(和訓集説),
と諸説挙げるが,常識的だが,
熟した果実の味をいうウム(熟)から,
が妥当に思える。「甘い」側も,
ウマシと通ず(日本釈名・大言海),
と,
あまし⇔うまし,
が互換的のようだが,
うまい→あまい,
と分化したと,見たい。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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