2018年07月03日
かがりび
「かがりび」とは,
篝火,
と当て,
夜中の警護または漁獲などの際に周囲を照らすために焚く火,
である。後者は,漁火を指すと思われる。『大言海』には,
篝(かがり)に焚く火,
とある。篝とは,
「薪を入れ,篝火を焚くのに用いる鉄の籠。釣り下げているもの,足を組み立ててのせるものなどがある。」(『広辞苑』)
篝籠,
の意味である。「かがり」は,
篝,
炬,
と当てる。「篝」(漢音コウ,呉音ク)は,
「竹+音符冓(コウ 前後を同じ形に対応させて木や竹を組む)」
とあり,組んだ物をまとめて言うらしく,
かご,
かがり,
ふせご(火や香炉の上にかぶせるかご。「衣篝(イコウ)」「香篝(コウコウ)」),
を意味する。中國由来かと思れる。『大言海』には,「かがり」について,
「赫(かが)を,カガルと活用させたる動詞ありて,其名詞形ならむと思はる。カガヤキの意」
とある。他の辞書には載らないが,『日本語源広辞典』は,
「カガ(眩い・輝く)+リ+火」
とし,
「篝火は大言海の説に従います。鉄製の籠に入れて,輝きを一層強くした焚火のことをいいます」
とする。松明に比べ,確かに明るく感じたに違いない。『日本語源大辞典』は,「篝」(かがり)の項で,「かがり」の語源を,カガ(赫)の活用という大言海説以外に,
カは焚く意。火を焚く籠の意か(東雅),
カケアリ(懸有)の義(名言通),
カゴイリヒ(籠入火)の意か(類聚名物考),
カハカリビ(河狩火)の転(日本語原学=林甕臣),
タケアカリ(竹明)の約(言元梯),
を載せるが,『大言海』の「カガの活用」に分がある気がする。ただ,
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q11153679381
で,
「『互い違いに編む』という意味の動詞『かがる』の連用名詞形『かがり』から篝火に使う籠が『かがり』と呼ばれるようになり、篝に燈す火を篝火と言うようになった。和名抄には「篝…竹器也」とあり、元は竹製だったようだ。
『輝く』と結びつける語源説もあるが、『輝く』は近世初めまで『かかやく』と清音だったことや『篝』は元々籠を指す言葉だった点からみて『輝く』と関連づけるのは無理。」
とある。『広辞苑』の意味なら,漢字「篝」とも重なる。
(歌川広重「永代橋佃しま」(名所江戸百景)http://edoshoten.jp/meisyo/u4.htmlより 隅田川にかかる永代橋から佃島を臨んだ夜景が描かれています。永代橋は日本橋の箱崎と深川の佐賀町を結んでいました。絵の中に火の玉ように見えるものは、白魚漁の篝火とのこと)
『岩波古語辞典』の「かがやき」で,確かに,
「近世前期までカカヤキと清音」
と,ある。「かがる」は,
縢る,
と当て,
糸をからげるようにして(互い違いにして)編み,または縫う,
意である。篝の意味とも重なる。ただ,「かがやく」の語源を見ると,「岩波古語辞典」説とは異なり,
カガ・カガヤ(眩しい・ギラギラ)+ク(動詞化)(日本語源広辞典),
カガは,赫(かが),ヤクは,メクに似て,発動する意。あざやく(鮮),すみやく(速)(大言海),
カクエキ(赫奕)の転(秉穂録),
カガサヤクの約言(万葉考),
カケイヤク(火気弥)の義。カはクハの反(言元梯),
光の強く目に感ずるさまと,カ音の耳に強く感ずる趣の相似ていることから(国語溯原=大矢徹),
と必ずしも,清音にこだわっていない。第一,
かがよひ
という言葉がある。「カギロヒと同根」(岩波古語辞典)で,
静止したのがキラキラと光って揺れる,
意である(「ともし火の影にかぎろふつせみの妹が笑まひし面影に見ゆ(万葉))。「かぎろひ」をみると,
「カガヨヒ・カグツチと同根。揺れて光る意。ヒは火」
そして,「輝きはカカヤキと清音。(かぎろひとは)起源的に別」とする。しかし,「カグツチ」は,
「カグはカガヨと同根。火のちらちらする意。ツは連体助詞,チは精霊」
で,
火の神,
なのである。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%82%B0%E3%83%84%E3%83%81
には,
「カグツチとは、記紀神話における火の神。『古事記』では、火之夜藝速男神(ひのやぎはやをのかみ)・火之炫毘古神(ひのかがびこのかみ)・火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ;加具土命)と表記される。また、『日本書紀』では、軻遇突智(かぐつち)、火産霊(ほむすび)と表記される。」
とある。さらに,「火之炫毘古神(ひのかかびこ)」の,
「炫(かか)は、現代語の『かがやく』と同じであり、ここでは『火が光を出している』といった意味」
「火之迦具土神(ひのかぐつち)」の,
「迦具(かぐ)は、『かか』と同様『輝く』の意であり『かぐや姫』などにその用法が残っている。また、現代語の『(においを)かぐ』や『かぐわしい』に通じる言葉であり、ここでは『ものが燃えているにおいがする』といった意味」
とあり,やはり,「かが」は,『大言海』の「赫」とつながるのではないか。仮に,「かか」と濁らなかったとしても,
「かか」「り」「ひ」
とつなげたとき,濁るようにになるのは自然ではあるまいか。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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