2018年07月09日

ナメクジ


「ナメクジ」は,

蛞蝓,

と当てる。『広辞苑』には,

なめくじり,
なめくじら,

とも,とある。

なめくじ.jpg


『日本語源大辞典』は,「ナメクジ」の語形について,

「全国に分布する語形の中で,ナメクジ,ナメクジリ,ナロクジラの三種が優勢であり,そのほか,マメクジラ,マメクジ,ナメラクジなど多様な語形がみられる。ナメクジリの語形は,この虫が野菜や樹木を「なめてくじる」という民衆語源からまれたと言われる。ナメクジラは,ナメクジリが『鯨』への類音牽引によって変化した可能性がある。ナメラクジはナメクジラの音位転倒形である。」

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%83%A1%E3%82%AF%E3%82%B8

には,

「一般にナメクジと呼ばれるものは分類学的にはカタツムリと同じ有肺亜綱の柄眼目に属し、カタツムリの一種とも言える。カタツムリの貝殻が徐々に退化して小さくなり体内に入って見えなくなればナメクジの形になるが、実際にはその途中の形態をもつ種類もある。」

と,カタツムリの進化系なのだという。

カタツムリが進化していくうちに殻を退化させた,

ものという。こういう「貝殻の消失」を,

ナメクジ化(limacization),

というらしく,こうある。

「海に棲む前鰓類のチチカケガイ科や後鰓類のウミウシ類もそれぞれ独自にナメクジ型に進化した巻貝と言える。ナメクジ化が起こる理由はかならずしも明らかではないが、殻を背負っているよりも運動が自由で、狭い空間なども利用できるメリットがある。地中でミミズ類を捕食するカサカムリナメクジ科では、その特異な捕食環境に適応した結果ナメクジ化したと見なすこともできる。」

と。

http://e-zatugaku.com/seibutu/sneil.html

には,

「海の巻貝が進化して殻がなくなったのが『ウミウシ』で、アンモナイト(貝じゃなくて頭足類)が進化して殻がなくなったのが『イカ』っていう感じですが(厳密には違います)」

とあるのがわかりやすい。

さて,その「ナメクジ」の語源について,『大言海』は,「なめくぢ」の項で,

「ナメは滑の義,クヂは縁行の意か,又,滑鯨(なめくじら)の略か」

とある。

倭名鈔「蛞蝓,奈女久知」
本草和名「蛞蝓,奈女久知」
字鏡「蝓,奈女久地」

といずれも,「なめくぢ」である。『岩波古語辞典』は,「なめくぢり」で載り,

「ナメは,滑(なめ)の意」

とあるが,「なめくぢり」は,「ナメクジ」は,

蛞蝓,

と当てるが,

蚰蜓,

と当てると,「げじげじ」の意となる,とある。「なめ(滑)」は,

なめらかなこと,なめらかなもの,

の意である。『日本語源広辞典』は,

ナメ(滑らかのナメ)+クジ・クズ(腐敗したもの),

とする。「なめ(滑)」はいいとして,「くじ(くぢ)」が何かが焦点になりそうである。『語源由来辞典』も,

http://gogen-allguide.com/na/namekuji.html

も,

「『ナメ』は滑らかに移動する姿から『滑』の意味が有力と考えられ,舐めるように這うことから『舐め』というせつもある。」

とし,「滑」か「舐め」というところに行きつく。『語源由来辞典』は,さらに,

「『クジ(クヂ)』は,ナメクジが植物の上を這った後,えぐられたようになっていることから,『あける』『えぐる』という意味の『くじる』とする説もあるが,民間語源である。」

と,民間俗説とする。もともと「なめくじ」と「かたつむり」は区別されていなかったため,『日本語源大辞典』は,

「『なめくじ』をハダカナメクジ,ハタガカナイト,ハダカメーメー,ハダカダイロなどと呼ぶ地域があるが,これらは『かたつむり』とくべつするために『なめくじ』にハダカを冠した語形である。」

という。なかなか古代の人々の眼力は端倪すべからざるものがある。語源諸説は,

ナメは滑,クヂは縁行の意か(大言海),
ナメは滑の義,クジも滑る物の称(俗語考),
ナメラケシ(滑化)の義(言元梯),
ナメは滑の義,クチラはクヂリたる形から(日本語源=賀茂百樹),
ナメクリタリ(滑転垂)の義(名言通),
ナメクヂラ(滑鯨)の義(和字正濫鈔・俗語考・大言海・上方語源辞典=前田勇),
ナメクシリ(圬来知)の義(柴門和語類集),

とあるが,「クジ」「クジリ」の解は見当たらない。これは「クジ」「クジリ」が別の転訛ではないかと思わせる。『日本語の語源』は,

「古人は目口無き虫をみて〈無目口虫〉と漢文流に表現し,禁止の副詞の『な鳴きそ』の語法を応用してこれをナメクチ(無目口)と読んだのがナメクヂになった。文献には奈女久知(和名抄),奈女久地(新撰字鏡)と見えている。〈いみじくきたなきもの,なめくぢ〉(枕草子)。
 室町時代にはナメクジ(日葡辞典)といい,語調を整えてナメクジリ(節用集。日葡辞典)・ナメクジラといった。〈五月雨に家ふりすててナメクヂリ〉(猿蓑)。
 語頭の『な』が子交(子音交替)[nm]をとげてマメクジ・マメクジリ・マメクジラという所は多い。」

とある。いくらか苦しいか。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:03| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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