カタツムリ
「カタツムリ」は,
蝸牛,
と当てる。「蝸」(漢音カ,呉音ケ)は,
「虫+音符咼(カ 窓,丸い穴)」
で,「カタツムリ」の意であるが,蝸牛(カギュウ)も同意である。「蝸牛角上の争い」「蝸角之争」などという言葉もある。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%83%84%E3%83%A0%E3%83%AA
には,
「『カタツムリ』という語は日常語であって特定の分類群を指してはおらず、生物学的な分類では多くの科にまたがるため厳密な定義はない。陸貝(陸に生息する腹足類)のうち、殻のないものを大雑把に『ナメクジ』、殻を持つものを『カタツムリ』『デンデンムシ』などと呼ぶ。」
とある。「なめくじ」の項,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/460423231.html?1531076628
で触れたように,なめくじは,
カタツムリの進化したもの,
つまり,
「カタツムリの貝殻が徐々に退化して小さくなり体内に入って見えなくなればナメクジの形」
である。『岩波古語辞典』は,「かたつぶり」の項で,
「カタ(固)ツブリ(円)の意」
としているが,『大言海』は,「かたつぶり」の項で,
「カタツブは,潟(かた)螺(つぶ)の転。…リは添えたる辞。…独楽(こまつぶり)もあり」
とする。「ら」について,
「リ,レ,ロに通ず。語の末に付けて云ふ助辞。」
と補足している。そして,以下の出典を載せる。
字鏡,虫偏に帛の字に「加太豆夫利」
天治字鏡,同字に「加太川比(かたつび)」
本草和名「蝸牛,加多都布利」(和名鈔,同じ)
「かたつぶり」が「かたつむり」に転訛したという言い方は,たとえば,
http://e-zatugaku.com/seibutu/sneil.html
で,
「昔の人が使っていた笠は、らせん状に縫っていたので巻貝に見立てられることがあったようで、その笠から『カタ』がついたようです。『ツムリ』は『ツブリ』と同系の言葉で、丸く小さいものを『粒』という『ツブ』も同源です。『カタツブリ』が変化して『カタツムリ』になったようです。」
とあるが,そう簡単ではない。「つぶり」の「つぶ」を「粒」と見るからだが,「つむり」の「つむ」を,「おつむ」「つむり」の「つむ」(頭)とみれば,
かたつむり→かたつぶり,
と転訛したとも言えるし,あるいは,「つぶ」を「つぶ(螺)」とみれば,粒と同じく,
かたつぶり→かたつむり,
となるのである。『日本語源広辞典』は,「つぶ」について,二説を採る。
説1は,「固い+つぶり(巻貝)」,
説2は,「カタ(殻)+ツブリ(頭)」,
その上で,
「ツブリは,ツムジ,頭のマイマイを,ツムジというところからの推定説です。カタツムリを,別名マイマイなどという。マイマイとは,渦巻きのこと,巻貝の意の方言。マイマイツブロの方言もあります。ツブ,ツブロはニシ(螺)だから,巻貝のことです。」
としている。つまり,「つぶ」を「螺」とすることで,「マイマイ」の説明にも通じる。ちなみに,「マイマイ」には,
マイマイツブリ,マイマイツブロ,マイマイツブラ,
といった異称がある。『日本語源大辞典』は,諸説を,次のように挙げている。
カタ(固)ツブリ(円)の義(岩波古語辞典),
カサツブリの転訛。カサは笠,ツブリは丸い巻貝で,笠に似た貝の意(蝸牛考=柳田國男),
カタは形。ツブリはツノフリ(角振)から(名語記),
カタツブはカタツビ(潟螺)の転。リは添え字(大言海),
片角を振りたてる義から(東雅),
カタヘツノフリ(片方角振)の略(名言通),
ツブリ(頭)をカタブケル意から(和句解),
頭をカタカタと音をたてて振るところから,かたふりの意,ツは助字(物類称呼),
カラクリル(殻転)の義。ツブ,クルは通音(言元梯),
ただ,「つぶ」は,
粒・丸,
と当て,
「つぶし(腿)・ツブリ・ツブラ(円)・ツブサニと同根」
とあり,「ツブリ(頭)」は,
「ツブ(粒)と同根」
とある。「ツビ」(粒)ともいい,「つぶ(螺)」は,
ツビ,
とも言うので,「粒」「丸」「円」「螺」は,ほぼ同じと見ていい。とすると,「カタ」は「固」か「潟」かだが,「カタツムリ」に「潟」は変ではあるまいか。僕は,
カタ(固)つぶ(螺・円・螺)り,
と見ていいと思うのだが,例によって,『日本語の語源』は,音韻変化から,異説を採る。
「カラウチコモリ(殻内籠り)の語は,強化による『ラ』の子交(子音交替)[rt],ウ・コの脱落,チの母交(母音交替)[iu],モの母交(母韻交替)[ou]の結果,カタツムリ(蝸牛)に転訛した」
とするが,少し無理筋ではないか。
ちなみに,「カタツムリ」の異称「でんでんむし」について, 『語源由来辞典』
http://gogen-allguide.com/te/dendenmushi.html
は,
「『出出虫(ででむし)』の変化した語。『ででむし』は、『出る』の命令形『出よ』「出ろ」の意味 で、『出ない』を意味する『出ん』や『電電虫』ではない。『ででむし』から『でんでんむし』に 転じたのは、童謡『かたつむり』に『でんでんむしむし かたつむり おまえのせなかはどこにある…』とあるように,子供達が口拍子に『でんたでん』と言ったためであろう。」
としている。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
簡野道明『字源』(角川書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
この記事へのコメント