「斎」は,

とき,

と訓ませる「斎」である。『広辞苑』には,

「食すべき時の意」

とあり,

「仏家で,午前中にとる食事,午後は食しないと戒律で定めている。斎食。時食」

とあり,そこから,

精進料理,
寺で出す食事,
法事

と意味が広がっていく。「斎(齋)」(漢音サイ,呉音セ)の字は,

「『示+音符齊(サイ・セイ きちんとそろえる)の略体』。祭りのために心身をきちんと整えること」

であり,

祭りの前に酒や肉を断ち,きまったところにこもって心を一つにして準備する,

の意であり,やはり,

ものいみ,
精進料理,
とき(僧の食事),

という意味になる。

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(「斎」説文解字(西暦100年成立の最古の部首別漢字字典) https://jigen.net/kanji/25998より)


https://okjiten.jp/kanji1829.html

によると,「斎」の字は,

「会意兼形声文字です(斉+示)。『穀物の穂が伸びて生え揃っている』象形(『整える』の意味)と『神にいけにえを捧げる台』の象形(『祖先神』の意味)から、『心身を清め整えて神につかえる』、『物忌みする(飲食や行いをつつしんでけがれを去り、心身を清める)』を意味する『斎」という漢字が成り立ちました。」

とあり,やはり,心身を浄め整える意味がある。

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『岩波古語辞典』には,

「時の意。仏教では元来,正午以後の食事非時食(ひじじき)として禁じたので,食すべき正しい時の食事をトキといった」

とある。従って,『日本語源広辞典』は,「斎」の語源は,

「時(とき)」

とし,こう付言する。

「午前中のものをトキ,午後のものをヒジ(非時)といいました」

と。「時」の意を,「斎」のもつ含意から,当て嵌めたと見ることができる。『大言海』は,

「食すべき時の義,齋は梵戒の鄔波婆婆(Upavāsa)の訳語にて,齋戒の齋,即ち食事を謹む意。比丘は戒律上非時に食ふべからず,時(午前中)に食ふを定法とす。故に,齋を時にかよはし,転じて,僧食を一般に齋と云へり」

とする。

齋を時にかよはし,

とはいい表現である。「斎」は,

「とき」

と訓ますだけでなく,

いつき,
ものいみ,

とも訓ます。総じて,

身を浄め,心を整える,

といった意味だが,「斎」の字は,「い」と訓んで,『岩波古語辞典』によれば,

イミ(斎・忌)と同根。

で,神聖である意だが,複合語としてのみ,

「斎垣」「斎串」「斎杭」「斎槻」

等々。さらに,

いつき,

と訓ませれば,『岩波古語辞典』によれば,

「イツ(稜威 自然,神,天皇の威力)の派生語。神や天皇などの威勢・威光を畏怖して,汚さぬように潔斎して,これを護り奉仕する意。後に転じて主人の子を大切にして仕え育てる意」

とあり,それが特定されると,

斎宮(いつきのみや),

の意となる。

Saikū_Historical_Museum_-_Display_item05_-_The_room_of_Saiô.jpg

(斎宮の居室(手前は内侍) 斎宮歴史博物館 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%8E%E5%AE%AEより)

いむ,

と訓ませると,「忌」とも当て,

神に仕えるために汚(けが)れを避けて謹慎する,
意と,
死・産・血などの汚れに触れた人が一定期間,神の祀(まつ)りや他人から遠ざかる,
意となり,さらに広がって,

方角・日取りその他,一般によくないとされている,

意へと広がる。

いわい,

と訓ませると,「祝」とも当て,やはり,

心身を清浄にして無事安全を祈り神をまつる,

意となる。当然だが,

さい,

と訓ませれば,漢字「斎」の意と重なる。和語は,「斎」を当てた瞬間に,「斎」の意味の外延からでられなくなったように見える。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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