トキ


「トキ」は,あの絶滅した,

朱鷺,
鴇,

の意である。他に,

鵇,

とも当てるが,「鵇」は国字である。また,「鴇」(ホウ)の字を「トキ」に当てるのは,我が国だけである。

「左側の字は,呆・保と同なじく,包む意を含む。鴇はそれを音符とし,鳥を加えた字で,羽で全身を丸く包んだ風がたちをした鳥」

で,「のがん」「ゆましちめんちょう」等々に当てられている。「トキ」は,

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https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%82%AD

によると,

「かつては北海道・本州・伊豆諸島・佐渡島・隠岐諸島・四国・九州・琉球諸島といった日本各地のほか、ロシア極東(アムール川・ウスリー川流域)、朝鮮半島、台湾、中華人民共和国(北は吉林省、南は福建省、西は甘粛省まで)と東アジアの広い範囲にわたって生息しており、18世紀・19世紀前半まではごくありふれた鳥であった。」

が,ロシア,大韓民国,朝鮮民主主義人民共和国,日本,台湾では絶滅,野生では中華人民共和国(陝西省など)に997羽(2010年12月現在) が生息しているだけとされる。

「飼育下では中国に620羽(2010年12月現在)、日本に211羽(2013年8月現在)、韓国に13羽(2011年7月現在)がおり人工繁殖が進められている」

という,ほぼ絶命状態である。人類が絶滅させた種の一つである。

『大言海』は,「トキ」に,

桃花鳥,
鴇,
鵇,

と当て,

ツキの転,

としている。「ツキ」は「トキ」の古名である。「桃花鳥」というのは,

鵇色(ときいろ),

から来ている。「鵇色」とは,

薄い桃色,

であり,「トキ」を,

紅鶴,

というのも,「トキ」の。

鵇(とき)の翅の如き色,

で,『大言海』は,それを,

「薄紅の灰色を帯ぶる」

と表する。『岩波古語辞典』の「ツキ」の項に,

「紅鶴,ツキ」(名義抄)

が載る。その翅の色が,染色に色として残った。

「トキ」の語源は,

「古名ツキの転」

という『大言海』の説以外,あまり載らないが,『日本語源大辞典』には,「ツキ」の由来について,

殺すと色がつくところからツキ(着)の義(名言通),
タウケ(桃色)の義(言元梯),

の二説のみ載る。いずれも,如何かと思う。

以前「サギ」の項,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/455767810.html

で,

「『キ(ギ)』は『トキ』『シギ』などと同じく「鳥」を意味する接尾語で、『サ』が『白』を表し、『白い鳥』の意味とする説。」

が,最も魅力がある。『日本語源広辞典』は「とり」の項で,

「ト(飛ぶ)+り(接尾語)」

としているのでなおさらである等々と書いた。ただ,「トキ」は,「ツキ」の転とすると,「ツ」について考えなくてはならない。ひとつの臆説は,「ツ」は,

「チ(血)の古形」

と,『岩波古語辞典』にあることだ。とすると,「トキ」の,

淡紅色を帯びた白色。顔と脚が赤く,頭に冠羽がある,

特色ともつながる気がする。「朱鷺」と当てることとも通うじる。

ツ(血)+キ(鳥の意),

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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