2018年07月20日
かずける
「かずける」は,
被ける,
と当てる。この字の通り,本来は,
頭に被らせる,
祝儀や褒美として衣類を肩にかけさせる,
という意味だが,それをメタファに,
かこつける,
責任を他に負わせる,転嫁する,
といった意味になる。「被」(漢音ヒ,呉音ビ)の字は,
「皮は,獣皮を手で引き寄せてかぶろうとすることを示す会意文字。傾斜する意を含む。被は『衣+音符皮』で,衣をひきよせてかぶること」
とある。
https://okjiten.jp/kanji1251.html
によると,
「会意兼形声文字です(衤(衣)+皮)。『衣服のえりもと』の象形(『衣服』の意味)と『獣の皮を手ではぎとる』象形(『皮』の意味)から、『毛皮のように覆う夜着』、『着る』を意味する『被』という漢字が成り立ちました。」
と,若干ニュアンスは違うが,「かぶる」「着る」という意味ではある。
「かずける」は,「かづく(かずく)」(下二段)の口語,「かづく(かずく)」は,
被く,
と当てるが,『広辞苑』は,
「『潜(かず)く』と同源で,頭から水をかぶる意が原義,転じて,ものを自分の上にのせかぶる意」
とある。「かづく」は,「かずける」とほぼ同じ意味になる。『岩波古語辞典』も,
被くと潜くは同源,
とする。「潜く」の項で,
「頭にすっぽりかぶる意」
とし,
水にくぐる,
水にもぐって,貝・海藻などをとる,
という意が載る。『大言海』は,「かづく」で,
①(潜く)(自動詞(頭突[カブツ]くの約か)もぐる,潜りて探る,
②(潜く)①の他動詞化,潜かしむ,もぐらしむ,
③(被く)(①と同義。自他同活用の語なるべし。ひらく(開)などの例)頭に掩(おお)う,被る,
④(被く)(他動詞・下二,③の挙動を,他に施すなり,あむ,あむす(浴)と同趣)かぶらす,
⑤(仮託)④の転。かこつける,負はす,帰せしむ,
と,項を別に,意味の展開を具体的に示している。この説では,「かづく」は,
潜く→被く→仮託
と,意味を転じ,人にかぶせる意となっていく。
「かづき」(被)は,名詞として,
被り物,
の意だが,
被衣,
とも当て,
衣被(きぬかづき),
の意でも使われる。『岩波古語辞典』によると,「かづき」は,
「室町時代頃から,『かつぎ』へと移りはじめたらしい」
とあり,『日葡辞典』には,
「カツギ,よりよくはカヅキ」
とあるとする。したがって,「衣被」も,
きぬかづき→きぬかつぎ,
と転じる。
で,「かづく」の語源は,「被く」が「潜く」から来たとすると,「潜く」の語原を探ればいいのだろが,『日本語源大辞典』には,両者の関係抜きで,それぞれの語源を,次のように挙げている。
まず「潜(かづ)く」は,
カブツク(頭突)の約か(大言海),
頭をツキイル(衝入)の意(雅言考・俗語考・和訓栞),
ヌカツク(額突)の上略(和訓栞増補),
水ヲ-カヅク(被)義か(俚言集覧),
カブリツクの約。カブルは水をカブル意(和訓集説),
カミツク(上着)の義(名言通),
「被(かづ)く」は,
上から被う意のカヅク(頭附)(国語の語根とその分類=大島正健),
カはカシラ(頭),カミ(髪)の原語。頭部を着くという義(日本古語大辞典=松岡静雄),
とある。しかし,「潜る」意の「かづく」から転じて,「被る」意の「被く」となったとするなら,
カブツク(頭突)の約か,
頭をツキイル(衝入)の意,
が自然に思えるのだが。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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