2018年07月30日

弱冠


「弱冠(じゃっかん)」は,『広辞苑』に,こうある。

「(古代中国で男子20歳を『弱』といい,元服して冠をかぶったことから)男子の20歳の異称,また成年に達すること」

とあり,転じて,

年の若いこと,

とある。出典は,『礼記』曲礼上。

人生十年曰幼 學 二十曰弱 冠 三十曰壯 有室 四十曰強 而仕 五十曰艾 服官政 六十曰耆 指使 七十曰老 而傳 八十九十曰耄 七年曰悼 悼與耄雖有罪不加刑焉 百年曰期 頤

とあるらしい(https://kanbun.info/koji/jakkan.htmlによる)。訓読文は,

人生十年を「幼」と曰ふ、學ぶ。二十を「弱」と曰ふ、冠す。三十を「壯」と曰ふ、室有り。四十を「強」と曰ふ、而して仕ふ。五十を「艾」と曰ふ、官、政に服す。六十を「耆(き)」と曰ふ、使を指す。七十を「老」と曰ふ、而して傳ふ。八十九十を「耄(ぼう)」と曰ふ、七年「悼」と曰ふ、悼と耄とは罪有りと雖へども刑を加えず。百年を「期」と曰ふ、頤(やしな)う。

つまり,

二十曰弱冠(「弱」と曰ふ、冠す),

から来ている。「冠す」とは,

冠(かんむり)をのせる。転じて元服する,

意である。

300px-弱-slip.svg.png

(弱 簡牘文字,戦国時代 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%BC%B1より)

「弱」(漢音ジャク,呉音ニャク)の字は,

「会意文字。彡印は模様を示す。弱は『弓二つ+二つの彡印』で,模様や飾りのついた柔らかな弓」

とある(『漢字源』)。これだと「よわい」という意味がよく出ない。

https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%BC%B1

には,

「『弓』+『彡』(かざり)の会意文字。装飾的な弓は機能面で劣ることから、『よわい』という意味がでた。」

とあり,

k-206.gif



https://okjiten.jp/kanji206.html

は,

「会意文字です(弓+彡×2)。『孤を描いた状態の弓(たわむ弓)』の象形と『なよやかな毛』の象形から、『よわい、たわむ』を意味する『弱』という漢字が成り立ちました。」

とある。これだと,「弱」の意味に辿り着く。

「冠」(カン)の字は,

「会意兼形声。『冖(かぶる)+寸(手)+音符元』で,頭の周りを丸く取り囲むかんむりのこと。丸いかんむりを手で被ることを示す」

とある(『漢字源』)。

k-1616.gif



https://okjiten.jp/kanji1616.html

は,

「会意兼形声文字です(冖+元+寸)。『おおい』の象形と『かんむりをつけた人』の象形と『右手の手首に親指をあて脈をはかる』象形から、『かんむりをつける』、『かんむり』を意味する『冠』という漢字が成り立ちました。」

冠をかぶるという動作そのものを形にしているとすると,「冠する」という言葉そのものとつながる。

https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%BC%B1%E5%86%A0

には,福沢諭吉が,

「そもそも義塾の生徒、その年長ずるというも、二十歳前後にして、二十五歳以上の者は稀なるべし。概してこれを弱冠の年齢といわざるをえず。たとい天稟の才あるも、社会人事の経験に乏しきは、むろんにして、いわば無勘弁の少年と評するも不当に非ざるべし。」(福沢諭吉『経世の学、また講究すべし』)

を,「本来的には誤用、修飾に用いて」若くしての意に使っている,とする。はすでに意味が,変じている証である。『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/si/jyakkan_toshi.html

は,

「中国周時代の 制度に由来する。古代中国では男子の20歳を『弱』といい,その歳になると元服して冠をかぶったことから,男子の20歳を『若冠』と言うようになった。日本でも20歳の意味で使われていたが,『年が若い』という意味でも使われるようになり,基本的に男性のみに用いるが,女性にも用いられるようになった。さらに現代では,『弱冠17歳○○でした』『弱冠28歳△△でした』というように,一般的に成し遂げられる年齢よりも若いという意味で用いられるようになった。」

と意味の変化に触れている。NHK放送分化研究所

https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/kotoba/gimon/132.html

は,

「『弱冠』の本来の意味は『(古代中国で男子20歳を『弱』といい、元服して冠をかぶったことから)男子の20歳の異称。また、成年に達すること』(『広辞苑』岩波書店)です。これが転じて今では『相対的な若さを表現する』場合や『20歳前後の若い人を指す』言い方として使われることが多くなっています。しかし、もともとの意味とは異なるうえ一般にはわかりにくく抵抗感があります。また、新聞社の中には『用字用語ハンドブック』の中で、『弱冠』について『男子20歳の異称』と本来の意味を示したうえで、新しい用法について『20歳前後に使う。「弱冠30歳」などとはしない』『10代からせいぜい20代までで「弱冠30歳」などとは使わない』と記述してあるところもあります。放送でも、『弱冠』の本来の意味と使い方をよく認識したうえで的確な表現を心がけましょう。」

とある。言葉は生き物だから,斯く変わっていく意味を,押しとどめることは難しいかもしれない。

参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)


ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:弱冠
【関連する記事】
posted by Toshi at 09:56| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください