2018年08月06日

つよい


「つよい」は,

強い,

と当てる。『岩波古語辞典』には,

「『弱し』の対。芯がしっかりしている意。類義語コワシは,表面が堅くて弾力性がない意。カタシ(堅)は形がきちんとしていて,壊れず,崩れない意」

とある。それに当てた「強(强)」(漢音キョウ,呉音ゴウ)の字は,

「会意兼形声。彊(キョウ)は,がっちりとかたく丈夫な弓。○印は丸い虫の姿。強は『○印の下に虫+音符彊の略体』で,もと,がっちりしたからをかぶった甲虫のこと。強は彊に通じて,かたく丈夫な意に用いる。」

とある(『漢字源』)が,少しわかりにくい。

https://okjiten.jp/kanji205.html

は,

「会意兼形声文字です。『弓』の象形と『小さく取り囲む文字と頭が大きくてグロテスクなまむし』の象形(『硬い殻を持つコクゾウムシ、つよい、かたい』の意味)から、『つよい』を意味する『強』という漢字が成り立ちました。」

とするが,これも意が通じない。

https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%BC%B7

は,

「会意説:『弘』+『虫』で、ある種類の虫の名が、『彊』(強い弓)を音が共通であるため音を仮借した(説文解字 他)、または、『弘』は弓の弦をはずした様で、ひいては弓の弦を意味し、虫からとった強い弦を意味する(白川静)。会意形声説:。『弘』は『彊』(キョウ)の略体で、『虫』をつけ甲虫の硬い頭部等を意味した(藤堂)。同系字:剛。」

と,ますますわからない。

http://kanjibunka.com/kanji-faq/old-faq/q0435/

では,

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「字源に関する基本的な文献、『説文解字(せつもんかいじ)』を見ると、『強』に関しては図のように記述されています。…まず一番上に『強』という字が示されていて、その次に書いてある妙な形をした図形は、篆文(てんぶん。篆書)の『強』。そしてその下には、『強』は『虫へん』に『斤』と書く漢字と同じである、と書いてあります。…この『虫へん』に『斤』…は、コクゾウムシという、固い殻をかぶった昆虫の一種を表す漢字だ、とされています。つまり、『強』とは本来、コクゾウムシを表す漢字であって、その殻が固いことから、『つよい』という意味へと変化してきた、というわけです。」

とあるから,「甲虫」か「コクゾムシ」となるが,白川説の,「虫からとった強い弦」というのは,

「『字統』(白川静,平凡社)によれば、『強』に含まれる『虫』はおそらく蚕(かいこ)のことで、この漢字は本来、蚕から取った糸を張った弓のことを表していた、ということになります。その弓の強さから転じて「つよい」という意味になったというわけです。」

となる。しかし,「よわい」「弱冠」の項,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/460877436.html
http://ppnetwork.seesaa.net/article/460804485.html?1532912174

で触れたように,「弱」は,

「模様や飾りのついた柔らかな弓」

と,「弓」と関わる。「強」の字も,「弓」についての説明がなければ,「弱」との辻褄が合うまい。

さて,『日本語源広辞典』には,「つよい」について,

「縄文時代からの言葉です。日本書紀には,勁,八世紀の経典には,健,堅。近世人情本には,強が使われ現代に至ります。」

とあり,「つよい」は,勁,健,堅,強と使い分けてきたものらしい。あるいは,「つよい」も含意が変わってきたのかもしれない。

「勁」(漢音ケイ,呉音キョウ)の字は,

「会意兼形声。巠(ケイ)は,上下のわくの間に,縦糸をぴんと張った姿。勁はそれを音符とし,力を添えた字で,足るまずぴんと張ること,つよい力で張り切る意に用いる」

「健」(漢音ケン,呉音ゴン)の字は,

「会意兼形声。建は『聿(筆の原字で,筆を手で立てて持つさま)+廴(歩く)』の会意文字で,すっくとたつ,からだをたてて歩く意を含む。健は『人音符建』。建が単にたつ意となったため,健の字で,からだを髙く立てて行動するの原義をあらわすようになった」

「堅」(ケン)の字は,

「会意兼形声。臤は,臣下のように,からだを緊張させてこわばる動作を示す。堅はそれを音符とし,土を加えた字で,かたく締まって,こわしたり,形をかえたりできないこと」

と,それぞれの含意をねこめて「つよい」の意味の陰翳を漢字に託したのであろうか。

さて,「つよい(つよし)」の語源は,『大言海』は,

「突能(つきよ)しの略。弱しに対す」

とある。『日本語源広辞典』も,

「ツ・ト(突・鋭利)+ヨ(能)+シ(形容詞語尾)」

とし,「突き方の強さ」を指す,とするのである。『日本語源大辞典』が挙げる諸説も,

副詞ツユ(露)と同源(続上代特殊仮名音義=森重敏),
ツは強いさまを表現するときに発する音,ヨは弥の義(日本語源=賀茂百樹),
ヨロヅヨキの義か(和句解),
ツヨはイツヨ(稜威弥)の義,
人も物も多数寄り集まると国家が強くなるところから,ツは一ツ二ツのツ,ヨは寄り会う義(国語本義),

をのぞくと,

ツクヨキ(突能)の義(名言通),
ツキヨシ(突能)の略(大言海),
ツク(突)意から出た語か,ヨは助声(国語の語根とその分類=大島正健)
ツはト(鋭)の転。ヨは形容接尾語ヤの転,シは活用語尾。精鋭の転義(日本古語大辞典=松岡静雄),

と,今日の「つよい」の,

力が優れている,
丈夫である,
気丈である,
堅固である,

等々の意に比べると,限定的に鋭利さ,鋭さを指していたように見える。漢字に,勁,健,堅,強等々と当て分けていくことで,意味の範囲を広げたようである。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:つよい 強い
posted by Toshi at 03:58| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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