2018年08月26日

シカ


「シカ」は,

鹿,

と当てる「シカ」のことである。

800px-Flickr_-_don_macauley_-_Sika_Deer.jpg



『広辞苑』には,

「『めか(女鹿)』に対し牡鹿をいうとも」

とあるが,これは,『語源由来辞典』(http://gogen-allguide.com/si/shika.html)に,

「古くは、シカは『カ』といった。その『カ』に『シ』が付いた『シカ』がオス、『メ』が付いた『メカ』がメスを表した。オスを表す『シ』は『夫』を表す古語『セ』の転で、メスを表す『メ』は『女』である。やがて、オスを表す『シカ』がメスも表すようになり、オスは『ヲジカ』、メスは『メジカ』と呼ばれるようになった。」

とあるのに対応する。『岩波古語辞典』にも」「か」は,

鹿の古名,

とあるが,『播磨風土記』に,

「おおぎみ…『しか鳴くかも』とのりたまいき。かれ餝磨(しかま)の郡となづく」

とあるように,ふるくから「シカ」も使われている。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%83%9B%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%82%AB

には,その辺りの経緯を,

「シカを意味する日本語には、現在一般に使われる『しか』のほかに、『か』、『かのしし』、『しし』などがある。地名などの当て字や、『鹿の子(かのこ)』『牝鹿(めか)』などの語に残るように、古くは『か』の一音でシカを意味していた。
一方、古くからの日本語で肉を意味する語に『しし』(肉、宍)があり、この語はまた『肉になる(狩猟の対象となる)動物』の意味でも用いられたが、具体的にはそれは、おもに『か』=シカや『ゐ』=イノシシのことであった。 後に『か』『ゐ』といった単音語は廃れ、これらを指す場合には『しし』を添えて『かのしし』『ゐのしし』と呼ぶようになったが、『かのしし』の方は廃語となって現在に至っている。さらに、『鹿威し(ししおどし)』『鹿踊り(ししおどり)』にあるように、おそらくある時期以降、『しし』のみでシカを指す用法が存在している。
こうした一方で、『しか』という語も万葉集の時代から存在した。語源については定説がないが、『か』音は前述の『か』に求めるのが一般的である。一説に『せか』(『せ』(兄、夫)+『か』)の転訛と考え、もと『雄鹿』の意味であったとも、また、『しし』+『か』の変化したものかともいう。」

と詳しい。『大言海』は,「か」(鹿)で,

「鳴く声を名とす,『カヒよとぞ鳴く』など云ふ」

とある。

「『鹿』は秋の季語であり和歌などに詠まれ、歌集におさめられている。シカは秋に交尾期があり、この時期になるとオスは独特の声で鳴き角をつきあわせて戦うため人の注意を引いたのだろう。」

とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%83%9B%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%82%AB)ように,鹿の鳴き声は,さまざまに歌に残されている。

奥山に 紅葉踏みわけ 鳴く鹿の 声聞くときぞ 秋は悲しき(猿丸大夫)(『古今和歌集』「詠み人知らず」)
下紅葉 かつ散る山の 夕時雨 濡れてやひとり 鹿の鳴くらむ(藤原家隆) 『新古今和歌集』
世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る 山の奥にも 鹿ぞ鳴くなる(藤原俊成) 『千載和歌集』

等々。なお,

「ニホンジカの夏毛は茶褐色に白い斑点が入った模様をしており、これは鹿の子(かのこ)と呼ばれ、夏の季語である。」

で,『大言海』は,「シカ」に,

牡鹿,

と当てて,前述来と同趣旨のことを,

「夫鹿(せか)の転。女鹿(めか)に対す。カセギというも,鹿夫君(かせぎみ)なりと云ふ。一説に,其角,桛木(かせぎ)に似たれば名とすと云ふ。セウガ,メウガと同趣(か,をシカ,サをシカ見合わすべし)」

とする。

『日本語源広辞典』は,以上から,二説に集約する。

説1は,「メカ(女鹿)」に対する牡鹿を,セカ(夫鹿)と呼び,その変化したもの,
説2は,「シ(肉)+カ(接尾語)」

『日本語源広辞典』は,「カ」を接尾語とするが,「カ」は「シカ」の古名と考えていい。『日本語源大辞典』は,

「古代からの食用狩猟獣で,猪と共に肉を意味する『しし』の語でよばれた。猪と区別して『かのしし』とよび,また『かせぎ』ともいう。これらに共通する『か』が,鹿を意味する基本的な語のようだが,『しか』と『か』の関係は明らかではない」

というが,「か」は,『大言海』のいうように,鳴き声,つまり擬音語からきているとみていい。ただ,「しし」というときは,(食用の)肉をさし,「シカ」は,「せか」「めか」と呼ぶときは,動物としての「シカ」を指していたのではないか。だから,歌や風土記などでは,「か」あるいは「シカ」が使われてきた。主体側の意識の差で,相手をつかいわけていただけなのではあるまいか。

C.n.yesoensis(200107).jpg



『日本語源大辞典』には,諸説が

メカ(女鹿)に対していうセカ(夫鹿・雄鹿)の轉(万葉集講義=折口信夫・大言海),
シカ(妋鹿)の意(日本語原学=与謝野寛),
シシカ(肉香)の義(名言通),
シは発語。カは鹿(国語の語根とその分類=大島正健),
シ(宍)カの意。カはケ(食)の分化した語で,肉が食用に供される動物をいう(日本古語大辞典=松岡静雄),
シシ(獣)の中で身のカルイ(軽)ものの義か。あるいは,シはシシ(獅子),カはカナシ(悲)の義か(和句解),
よく天道を知り,嗅覚が発達しているところから,シカ(知齅)の義(柴門和語類集),
シはシタフ意,カは鳴声から(槙のいた屋),
シロ(白)く,臭(か)あるところから(日本釈名),
アシキハの略(関秘録),
ホシケ(星毛)の義(言元梯),
背も角もシッカリした獣であるところから(本朝辞源=宇田甘冥),
シカ(大角),またはシカ(獣角)か(語源辞典=動物編=吉田金彦),

載るが,その区別がついていないと思えてならない。。

因みに,「鹿」(ロク)の字は,(角のある牡)シカの姿を描いた象形文字。

k-1475.gif



参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:シカ
posted by Toshi at 04:23| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください