2018年08月27日
タケ(茸)
「タケ」は,
茸,
菌,
蕈,
と当てるが,「きのこ」の意である。「きのこ」も,同じ字を当てる。
「きのこ」は,
木の子,
で,「たけのこ(竹の子)」に対しての語(『日本語源広辞典』)とあるが,『大言海』は,
「竹の子,芋の子もあり」
としているので,必ずしも対ではなさそうだ。木に寄生するために,そう名づけたものらしい。「くさびら」(クサヒラ)とも言うらしいが,古くは,
木茸(きのたけ),
土茸(つちたけ),
といったらしい。『大言海』の「たけ(茸・菌・蕈)の項には,
「椎茸,榎茸の類は木ノタケと云ひ,松茸,初茸の類を土タケと云ひ,岩茸の類は岩タケと云ふ」
と区別している。『大言海』が引用しているのを挙げると,
和名抄「菌茸,菌有木菌木菌岩菌,皆多介,如人著笠者也」
箋注和名抄「菌,太介,有數種,木菌土菌石菌云々,形似蓋者」
本草和名「木菌,岐乃多介,地菌,都知多介」
等々。なお,「たけ」の訓みについて,
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AD%E3%83%8E%E3%82%B3
「日本語のキノコの名称(標準和名)には、キノコを意味する接尾語『〜タケ』で終わる形が最も多い。この『〜タケ』は竹を表わす『タケ』とは異なる。竹の場合は『マ(真)+タケ(竹)』=『マダケ』のように連濁が起きることがあるが、キノコを表わす『タケ』は本来はけっして連濁しない。キノコ図鑑には『〜ダケ』で終わるキノコは一つもないことからもこれがわかる。しかし一般には『えのきだけ』、『ベニテングダケ』のような誤表記が多い。」
とある。「タケ(竹)」とは異なる,特殊の位置を「タケ(茸)」は持っているらしい。
さて,「タケ」の語源であるが,『岩波古語辞典』は,
「タケ(長)と同根高く成るものの意」
とあり,「長け」を見ると,
「タカ(高)の動詞化。高くなる意。フカ(深)・フケ(更)・アサ(浅)・アセ(褪)の類」
とある。この「長け」は,身の丈の「丈」とも通じる。「たけ」については,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/443380153.html
http://ppnetwork.seesaa.net/article/456786254.html
で触れたことがあるが,『日本語源広辞典』は,
「長く(タク)は,高さがいっぱいになることの意で使います。時間的にいっぱいになる意のタケナワも,根元は同じではないかと思います。春がタケルも,同じです。わざ,技量などいっぱいになる意で,剣道にタケルなどともいいます。」
としている。しかし,『たべもの語源辞典』は,この説を,説明なく,「感心しない」と述べ,
「キノコを~タケというが,タケリ(牡陰)の略で,男性のシンボルに似ているからといい,略してタケになった」
と自説を挙げるが,それこそ感心できない。『大言海』も,
「牡陰(たけり)の略。形似たり」
としている。しかし,『大言海』自身が区別して見せたように,「タケ」には,松茸のような「土タケ」だけではない。たとえば,「シメジ」はどう説明するのだろうか。
『日本語源大辞典』は,
形が似ているところからタケリ(牡陰)の略(名言通・大言海),
タケ(長)と同根(岩波古語辞典),
以外に,
丈,竹,嶽と同義で直立の義(箋注和名抄),
動詞のタク(高)の連用形名詞法(続上代特殊仮名音義=森重敏),
笠のようにたけたつところから,タケ(長)タルの義(拠字造語抄),
気味のタケキ(猛)の義(和訓栞),
タケ(陀化)の義(言元梯),
が載るが,『日本語源大辞典』が,「タケル(直立)」説,「タケリ(牡陰)」説以外に挙げた,
「タケル(長ける・時が過ぎ,開いたキノコ)のタケ」
の説明がいい。「タケ」は,長け,丈であり,タケナワの「タケ」である。
春タケナワ,
の「タケ」にある,時間経過が過ぎると,カサが開くい意ではないか。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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