「ニラ」は,
韮,
韭,
と当てる。ヒガンバナ科ネギ属に属する多年草,緑黄色野菜である。「韮」(漢音キュウ,呉音ク)の字は,
「象形文字。地上に,ニラが生え出た姿を描いたもの。」
である。「韭」(漢音キュウ,呉音ク)の字も,同じく,ニラが生え出た姿を描いた象形文字である。
(ニラ(韮、韭、Allium tuberosum) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%83%A9より)
「『古事記』では加美良(かみら)、『万葉集』では久々美良(くくみら)、『正倉院文書』には彌良(みら)として記載がある。このように、古代においては『みら』と呼ばれていたが、院政期頃から不規則な転訛形『にら』が出現し、『みら』を駆逐して現在に至っている。近世の女房言葉に二文字(ふたもじ)がある。」
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%83%A9)。『日本語源広辞典』は,だから,
カミラ→ミラ→ニラ,
との転という。「ニラ」は,他に,
豊本,豆実,白薤,懶人菜,起陽草,鐘草乳,
等々の異名がある(『たべもの語源辞典』)。方言では,
「ふたもじ(二文字。千葉県上総地方)、じゃま(新潟県中越地方)、にらねぎ(韮葱。静岡県、鳥取県などの一部)、こじきねぶか(乞食根深。愛知県、岐阜県の一部)、とち(奈良県山辺郡、磯城郡)、へんどねぶか(遍路根深。徳島県の一部)、きりびら(沖縄県島尻郡)、ちりびら(沖縄県那覇市)、きんぴら(沖縄県那覇市)、んーだー(沖縄県与那国島)などがある。」
等々とか(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%83%A9)。
『日本語源大辞典』にも,
「『古事記・中・歌謡』に『賀美良(カミラ)』の根と芽を一つにして的を撃とう,という歌があり,上代の人々がニラをミラと呼び,邪悪なものを追い払う力があると信じていたことがわかる。『大言海』にミラは『かみらノ略カ,芽平(メヒラ)の約か』とみえ,『こみらハ,今,訛シテ,にらト云フ』とある。『新撰字鏡』には『韮 太々美良』とある。平安時代にはタダミラ(タタミラ)・コミラなどミラ系が中心であった。平安後期から末期にはニラも現れ,『観智院本名義抄』には『タダミラ ニラ コミラ』と並べられている。」
とあり,やはり,
カミラ→ミラ→ニラ,
と転じたものとみていい。『岩波古語辞典』の「かみら(韮)」には,ニラの古名として,
「カは香,臭気ある意」
とある。『大言海』は,
「(ミラの転)古言,ラミラ。コミラ。ミラ。ナメミラ。異名フタモジ」
とし,「名義抄」には,
「韮,ニラ,コミラ,薤,ミラ,ニラ」
とある。「薤」(漢音カイ,呉音ゲ)も,ニラである。
「ニラ」の語源説は,
ニホヒキラフ(香嫌)の略(日本釈名・滑稽雑誌所引和訓義解・柴門和語類集),
髪に似るところからニは似,ラはカシラの義か(和句解),
ネメヒラ(根芽平)の転訛,
細く伸びた形をしているのでノヒラカの略,
等々あるが,「ニラ」は,
ミラの転,
であり,ミラは,
カミラの転訛,
とするなら,その語源を探るしかない。『たべもの語源辞典』は,
「ニラのニはニオイ(匂)の略である。ラは,キラフ(嫌)の略である。その臭気を嫌った名であるという。ナメミラは嘗韮であり,ククミラは茎韮である。古名のカミラは香韮である。コミラは小韮でオオミラ(大韮)に対しての呼び名である。オオミラはラッキョウである。また,ミラは美良である。ニラには,においがあるからカミラ(香韮・臭韭)とよんだもので,カミラがコミラともよばれたのである。コミラの意も香韮と同じことである。ミは,『満る』とか『みづみづし』と,美しいもの立派なものである。ミラは,良いもの,美しいものである。ニラが生えているさまが美しかったから,ミラという古名が生まれ,転じてニラとなったのである。香りが高いからカミラとも呼んだ。嫌っての名ではない。」
と述べ,カミラ(香韮),ミラ(美良),から転じたニラに,「美」と「香」が通底していることを主張している。妥当である。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95