2018年09月18日

旗を巻く


「はた」に当てる漢字は,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/455661837.html

で触れたように,かなりの数があり,それぞれ使い分けていた。「旗」の字は,『字源』に,

「古は熊虎を描き,大将の建てしもの,衆と其の下に期するもの」とあり,旌旗の「旌」の字は,

「旗竿の上に旄(からうし)の尾をつけ,之に析きたる鳥羽をつけたるはた」(『字源』)

で,「昔は兵卒を元気づけて進めるために用いた。のち,使節のもつ旗印のこと」(『漢字源』)という。「旗幟」の「幟」の字は,我が国では,「旗」と区別して「のぼり」の意だが,

「めじるしのために立てる旗」

を意味する。「幡然」(ほんぜん)の「幡(旛)」の字は,

「色のついた布に字や模様をかいてたらしたはた」

の意である。なお,古代律令の編目の一つ「軍防令(ぐんぼうりょう)」には軍旗の制があり,

「将軍旗は纛幡(とうばん)、隊長旗は隊幡、兵士の旗は軍幡と注する(『令義解(りょうのぎげ)』)。すでに所属・職階の標示となっている。」(日本大百科全書(ニッポニカ))

というが,ここでは「はた」に,「幡」を使っている。「旆」の字は,

「いろいろな色の布で,二つに開く尾をつけたはた」

とある。「旄」の字は,氂(からうし,ヤクのこと),あるいはその尾を意味するが,

その尾を竿頭につけた旗

の意である。「幢」の字は,

「旌旗の属とあり,絹の幕で筒型に包んで垂らした飾り,のことらしい。朝廷の儀仗行列の飾りに用いる。」(『字源』)

とあるが,『魏志倭人伝』に,

正始六年詔賜倭難升米黄幢付郡假授,

とある,「黄幢」の「幢」である。

旗を揚げる,

が,軍を起こす,兵を挙げる(後漢書・袁紹伝)意で,それをメタファに,旗揚げするということを起こす意に広げて使う。当然「旗を巻く」のは,

軍(いくさ)の旗を巻き収める,

意で,

旗を降ろす,

兜を脱ぐ,

の同じく,

戦意をなくす,

という意になる。敗北,降参の意ともなる。旗を巻くという状態表現が価値表現へと転じたということなのだろう。『大言海』の「はた(旗・旌・幡)」に,

「遂陷康居,屠五十城,搴歙侯之旗,斬郅支之首,懸旌萬里之外,揚威昆山之西」(漢書陳湯傳)

を引く。「旗」は敵将の象徴なのである。ただ,

旗を振る,

というのは,鼓舞する意味にしても,近代以降で,旗指物も,幟も,馬印も,そこに居ることを示すためのものであって,振ったりするものではないように思う。

http://ppnetwork.seesaa.net/article/459556323.html

で触れたように,もともとは,

「平安時代以来、武士たちは軍容を誇示したり、自軍と敵軍との識別をおこなうために、長い布の短辺に木を通して紐で吊り上げて風になびかせる、丈の高い流れ旗を軍団の象徴として掲げた。」

が,それに,

「布地の長辺の一方と上辺のあわせてふたつの辺を旗竿に結びつけることで流れ旗との識別を容易にした幟が発案され、全国の武家へと徐々に広まっていった」

とされる。それを巻くことは,撤兵か,終戦か,敗北しかない。

似た言葉に,

尻尾を巻く,

は,

負けたことを認める態度をとる,

という動物の生態からきたものだろうか。類義語で,

白旗を揚げる,

は,一般化するのは,近代で,かつては源氏の旗印が白旗であったように,以降も,白旗を源氏の家系を主張するものの意で用いおり,白旗が降参の意で広く用いられたのは,明治以降ではないだろうか。

ただし,

『常陸国風土記』の行方郡のくだりには、降伏の意図で「白幡」をかがけた,

とか,

『日本書紀』に,素幡(白きぬの旗)を船に立てて降伏の意を表した,

等々記述があり,白旗=降伏の意で用いる例はあったらしい。降伏目的での白旗使用の嚆矢は,

西暦25-205年の中国漢時代,
あるいは,
ローマ時代の西暦69年の第二次クレモナの戦い,

で白旗が使用されたという。白旗使用は、古代世界においての調達のし易さがある,という。ローマ時代でも,一般的には「一般的な降伏方法は、自らの盾を頭の上に載せる方法」だったらしいのに,白旗で降伏の意が,敵に伝わった,というのは面白い。

参考文献;
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%99%BD%E6%97%97

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

【関連する記事】
posted by Toshi at 04:24| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください