まく(巻く)


「まく」と当てる漢字は,

巻く,
捲く,
播く,
蒔く,
撒く,
枕く,
婚く,
纏く,
負く,
設く,
任く,
罷く,

等々ものすごい数になる。ただ,大まかに,

巻く,
捲く,

と,

枕く,
婚く,
纏く,



播く,
撒く,
蒔く,

と, その他由来を異にする,

負く,
設く,
任く,
罷く,

等々に別れる。同じく「まく」とはいいつつ,由来は異にする。

巻く,
捲く,

を取り上げてみる。『岩波古語辞典』には,

「一点,または一つの軸を中心にして,その周囲に渦巻状の現象や現状が生ずる意」

とあり,『大言海』には,

「圓く轉(く)る意か」

とし,

「渦の如く,クルクルと折り畳む」

とする。そして,

纏く,

をつなげ,

纏いつく,
絡み付く,

意とつなげている。そして,

枕く,

は,

「纏く意,マクラと云ふも頭に纏く物なれば云ふならむ」

とする。「枕く」は,

相手に腕をかけてかき抱く,

と,「巻く」とつながるのである。

『日本語源広辞典』は,「巻く」の語源を,

「マク(丸く包み込む)」

とする。しかしこれは,「巻く」と当てた上での後解釈に見える。『日本語源大辞典』は,『大言海』の,

マルククル(円転),

以外に,

マロカスの反モクの転か(名語記),
マロカス(丸)の義(名言通),
前に繰るの義か(和訓栞),
マルメク(円来)の義(日本語原学=林甕臣),
マロ(円)にするの意(国語溯原=大矢徹),
マルクの略か(和句解),
円く畳む意(国語の語根とその分類=大島正健),
マク(曲転)の意(言元梯),
マはムカハ(向)の約。向へあわす意(和訓集説),

等々を挙げる。当然「まる(円・丸)」との関連が気になってくる。「まる」は,『日本語源大辞典』に,

「中世期までは『丸』は一般に『まろ』と読んだが,中世後期以後,『まる』が一般化した。(中略)本来は『球状のさま』という立体としての形状をさすことが多い。平面としての『円形のさま』は,上代は『まと』,中古以降は加えて『まどか(まとか)』が用いられた。『まと』『まどか』の使用が減る中世には『まる』が平面の意をも表すことが多くなる」

とあり,「まる」は,

まろの転,

で,『岩波古語辞典』には,「まろ」の項で,

「球形の意。転じて,ひとかたまりであるさま」

と,更に意味が転じている。「まろ」の語源は,

音を発するときの口の形から(国語溯原=大矢徹・国語の語根とその分類=大島正健),
マアル(真在)の義(日本語原学=林甕臣),
マロ(転)の義(言元梯),
全の義(俚言集覧),

等々と載るが,僕には,「廻る」との関連が気になる。「廻(まは)る」は,『岩波古語辞典』には,

舞ふと同根,

で,

「平面を旋回する意」

とある。「舞う」の語源を見ていくと,『日本語源大辞典』に,

「類義語『踊る』があるが,それは本来,とびはねる意であるのに対して,『まう』は回る意」

とある。こう見ると,「巻く」は「まる」とつながり,「まる」は「廻る」とつながっていく。

「巻く」とつながる「枕く」「纏く」「婚く」は,

枕をしたときの形容から巻くの義(雉岡随筆),
マはタマ(玉),マル(丸)などの語根。腕で首を巻いて寝る意から(日本古語大辞典=松岡静雄),
体を撓めるところからマグ(曲)の意(釈日本紀),
マギヌル(纏寝)の意(亮々草子),
男女が袖を差し交えて相巻く意から(類聚名物考),

と語源は「巻く」「まる」とつながっていく。

播く,
撒く,
蒔く,

と,

負く,
設く,
任く,
罷く,

については,項を改める。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
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