2018年09月21日
まく(負く)
「巻く」と当てる「まく」は,関連する,
巻く,
捲く,
と,
枕く,
婚く,
纏く,
は,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/461755507.html?1537386881
で触れた,「まく」に当てる,
播く,
撒く,
蒔く,
と, その他由来を異にする,
負く,
任く,
罷く,
設く,
について,続けてみたい。
播く,撒く,蒔く,と当てる「まく」は,『岩波古語辞典』に,
投げて一様に散らばらせる,
意とある。振りまく,種をまく,といった意味になる。『日本語源広辞典』の,
「マク(粉,粒を丸く散らし落す)」
では,なにやら同語反復のきらいがある。『日本語源大辞典』は,
マアク(間明)の義(名言通),
マク(間配)の義(言元梯),
マクバルの義(和句解),
バラバラという音からか。マとバは通音(国語の語根とその分類=大島正健),
マは廻囲の義(国語本義),
マヰクの義か(和句解),
マはモリ(漏)の語幹モの転か(日本古語大辞典=松岡静雄),
と,いずれもいまひとつである。僕は,「巻く」と関連するのではないか,という気がする。種をまく時,円を描くようにに播く。振りまく時も,同様である。こういう振舞の言語表現は,ひとつらなりなのではないか。
「負く」は,敗北の意と,値段を負ける,意とがある。後者は,前者を準えているので,敗北の意が先だろう。『大言海』は,両者を別項にし,敗北の意の「負く」は,
間を譲る意か,
としている。「負けさせる」意の「負く」は,「譲る」という意味のメタファとして使われたとみていい。
「負ける」の語源について,『日本語源広辞典』は,二説挙げる。
説1は,「マク(任)+ク」。相手の意のままになる意,
説2は,「マ(間)+ク」。相手に間を譲る意,
『日本語源大辞典』は,
敵に事をまかせる意で,マカスル(任)義(名言通),
任を活用したもの(国語本義),
マロカル(転軽)の義(言元梯),
アケルの転か,またマロバス(転)の義か(志不可起),
間を開いて歩を譲るの意(国語の語根とその分類=大島正健),
マケル(目消)の義(柴門和語類集),
マはメ(目),クルはクラムの義か(和句解),
真にクグマルの意(本朝辞源=宇田甘冥),
マコトの消える意(日本声母伝),
と挙げる。やはり,「任く」との関連に着目すべきだろう。「任く」は,任せる意である。『岩波古語辞典』は,
マカセ(任)と同根,
とし,「任せ」は,
「マケ(任)と同根。物事の進行を他の自由な意志・力のままにさせる」
とする。ほぼ「負け」と重なっている。
「任す」「任せる」の語源は,『日本語源広辞典』には,
「マケ(意のままにする)+ス」
とし,『日本語源大辞典』は,
マケス(任為)の義(日本語原学=林甕臣),
人を勝たせ自分を負けにして相手次第にする意から(和句解),
モタゲサス(持挙)の義(名言通),
君の目を臣に借す意で,マカス(目借)の義(柴門和語類集),
と,ほぼ,「負かす」と重なっていく。「負く」と「任く」は,同じ意味を,違う言い方で言っているだけに見える。敗北し,意に任かす,と。『大言海』は,「任く」の項で,
罷(まか)らすの約,
とするので,「罷く」ともつながっていく。「罷る」は,『岩波古語辞典』で,
マカセ(任)・マケ(任)と同根。天皇・主人など,自分を支配する者の命ずるままに,行ったりする意。自分の石に依らず相手の意志に従って動くので,相手に敬意を表することになり,後には謙譲表現になった」
とある。こうみると,先ず物理的な敗北の,
負く,
があり,次に心理的な敗北・隷属の,
任く,
があり,遂に下から見上げる隷属の目線から,謙譲の,
罷く,
となる,という変化であろうか。
「設く」は,設ける意だが,この「まく」だけは,独立のようである。「まく」は,「まうく」「もうく」と変化して用いられる。『岩波古語辞典』に,
将来の事態を見込んでそれに応じた用意をする意,
とある。この「設ける」は,「儲ける」に通じる。
マウクル(間受)の義(言元梯・国語の語根とその分類=大島正健),
マチウク(待受)の義(名言通。和訓栞・本朝辞源=宇田甘冥),
マウケ(待請)の義(柴門和語類集),
と,マチウケという含意でいいのだろう。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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