「まくら」は,「まく(巻く)」の項,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/461755507.html?1537386881
で触れたように,「巻く」は,『岩波古語辞典』に,
「一点,または一つの軸を中心にして,その周囲に渦巻状の現象や現状が生ずる意」
とあり,『大言海』には,
「圓く轉(く)る意か」
とし,
「渦の如く,クルクルと折り畳む」
とする。そして,
纏く,
をつなげ,
纏いつく,
絡み付く,
意とつなげている。そして,
枕く,
は,
「纏く意,マクラと云ふも頭に纏く物なれば云ふならむ」
とする。「枕く」は,
相手に腕をかけてかき抱く,
と,「巻く」とつながるのである。で,改めて,「まくら」に触れてみたい。「まくら」は,
枕,
と当てるが,「枕」(チン,シン)の字は,
「会意兼形成。右側の冘は,人の肩や首を重荷でおさえて,下に押し下げるさま。古い字は,牛を川の中に沈めるさま。枕はそれを音符として,木を加えた字で,頭で押し下げる木製のまくら。」
とある(『漢字源』)。
『日本語の語源』は,「まくら」の語源を,
「アタマオク(頭置く)の省略形としてマク(枕く・四段)という動詞が生まれた。『枕とする枕にして寝る』という意味である。」
という説は,逆立ちではあるまいか。「まく」という動詞は,「巻く」「纏く」「枕く」と意味の繋がりがあり,普通に考えれば,その「枕く」から「まくら」となったと見るべきではあるまいか。
(丸太を半月状に切り落として使用した。スギ、桂、桐、香木などが使用された。http://www.fujibed.com/pillow_museum/kind.htmlより)
(木枕(日本・飛鳥時代~・レプリカ)自然木の幹と枝をうまく使い枕に加工してある。ややバランスが悪い。仝上)
『大言海』は,「まくら」を,
「間座(まくら)の義。頭のすきまを支ふるなり」
とする。もしあるとすると,
枕く座,
なのかもしれない。「くら」は,『岩波古語辞典』に,
「鞍と同根」
とし,
「人や動物が乗る台,また物を乗せておく設備」
とある。「高御座(たかみくら)」「千座」「鳥座」等々,複合語に残っている。
『日本語源広辞典』は,二説挙げる。
説1は,「マ(間・床と頭の間)+クラ(座)」の大言海説。
説2は,「マク(枕く)+ら(接尾語)」。
『語源由来辞典』は,
http://gogen-allguide.com/ma/makura.html
「枕の語源は、『ま+くら』とする説と、『まく+ら』とする説がある。『ま+くら』の説には、頭 の隙間を支える意味で『間座(まくら)』、神・霊を召喚するために頭を乗せる意味で『真座(まくら)』などがある。その他、『ま』を『頭のま』とする説など数多くあるが,それぞれの言葉が使われていた時代が前後するため,有力な説とはされていない。
『まく+ら』説は,『枕にして寝る』意味の『まく』に接尾語『ら』がつき名詞化されたというものである。万葉集に『大和女(やまとめ)の膝麻久(ひざまく)ことに 吾を忘らすな』と,『まく』の例がみられる。また『ま+くら』と『まく+ら』の中間に位置する『纏(ま)く+座(くら)』や『巻く(まく)+座(くら)』といった説もある。」
と書くが,「巻く」も「纏く」も「枕く」も,さらに「婚く」も,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/461755507.html?1537386881
で触れたように,ほぼ重なることを考えると,
枕く+座(くら)。
makukura→makura,
の転訛もありえる,と僕は思う。
『日本語源大辞典』は,『大言海』の「間+座」説以外に,以下のように諸説挙げている。
マはアタマの略。アタマクラ(頭座)の義(日本釈名・茅窓漫録),
アタマクラ(天顖座)の義(言元梯),
マクラ(頭座)の義か(箋注和名抄・雅言考),
目をおいてやすむところから,マクラ(目座)の義(類聚名義抄・俚言集覧),
メクラ(目座)の義(名言通),
メクラミ(目座)の義(日本語原学=林甕臣),
目鞍の義(名語記),
マはカミ(首)の義(東雅),
マク(枕)の義から(雉岡随筆),
動詞マク(枕)と同根(小学館古語大辞典),
古くは畑を巻いて枕としたところから,マン(巻)の義(古事記伝・俚言集覧),
マキクラ(纏座)の義(古事記伝・和訓集説・雅言考・菊池俗語考・日本語源=賀茂百樹),
マクとクラ(座)の合成語(国語の語根とその分類=大島正健),
神霊を呼び出す手段として枕するための。マクラ(真座)の義か(文学以前=高崎正秀),
「巻く」「纏く」「枕く」が重なるとすると,ほぼ,
まく(巻く・纏く・枕く)+くら(座),
に行きつくが,ひとつ,頭を乗せる,という意味の,
頭座,
は,いかにもありそうだが,「あたま」は,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/454155971.html
で触れたように,。『岩波古語辞典』に,「あたま」は,
「古くは頭の前頂,乳児のひよめき。頭部全体は古くはカシラといったが,中世以後,アタマともいうようになり,カシラはだんだん文語的につかわれるようになった。」
とある。「あたま」は全体を指さなかった。
かしら+くら,
では語源とはなるまい。
参考文献;
http://www.fujibed.com/pillow_museum/kind.html
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95