2018年09月23日
まげて
「まげて」は,「まげてお願いしたい」というように使うが,
枉げて,
曲げて,
と当てる。「枉」(オウ)の字は,直の対,
枉道(オウドウ),
道理を押し曲げる,
の意で使われ。「曲」(漢音キョク,呉音コク)も,「直」の対。
「象形。曲がったものさしを描いたもの」
とされる(『漢字源』)。
「まげて」は,『広辞苑第5版』には,
「『理』を曲げての意」
とあるが,『デジタル大辞泉』の,
「道理や意志に反して行動するさま。無理を承知で頼むときに使う。」
の方がわかりやすい。
無理に,
どうしても,
というより,
是が非でも,
というニュアンスである。『学研全訳古語辞典』には,
無理ではあろうが,ぜひとも,
とある。これが正確な気がする。「枉げる」のは,心ならずもの「心」は,
理想の「想」,
なのか,
道理の「理」,
なのか,
節義の「節」,
なのか,
規範の「矩」,
なのか,
情誼の「情」,
なのか,
志操の「志」,
なのか。
枉げたことが,大きくその後の生きざまを左右することもある。
「まげる」について,『岩波古語辞典』は,「曲がり」「曲げ」の項で,
「マガ(禍)と同根。湾曲,屈曲する意。真直ぐのものが好まれ,正しいものとされたので,マガリは悪く,ねじける意。類義語ユガミは均整を失って,左右どちらかに寄り,傾く意」
とある。それは漢字「曲」「枉」の含意と同じである。しかし,『大言海』は,「曲(ま)ぐ」の項で,
巻くに通ず,
とている。「巻く」
http://ppnetwork.seesaa.net/article/461755507.html?1537386881
で触れたように,『大言海』は,
「圓く轉(く)る意か」
とし,
「渦の如く,クルクルと折り畳む」
とし,
纏く,
とつなげ,
纏いつく,
絡み付く,
意とつなげている。この場合,「曲がる」状態を「巻く」状態に重ねている。しかし,「巻く」の持つ,「纏く」とつながり「枕く」「婚く」と重なっていく含意と,「曲ぐ」の含意とは違い過ぎないだろか。しかし,『日本語源大辞典』は,
ものを円形にする意で,マロ(円)の転(国語溯原=大矢徹・国語の語根とその分類=大島正健),
マク(巻く)に通ず(大言海),
マは任すの意(国語本義),
マハリキアル(廻來有)の義(名言通),
と,いずれも「円」や「丸」と関わらせている。
改めて,『岩波古語辞典』のいう「禍(まが)」に当たると,『岩波古語辞典』は,
「マガリ(曲)と同根。真直ぐな,正しいものに対して,不正・害悪の意」
とするのだが,『大言海』は,
「枉(まが)の義。直(なお)の反」
とする。ここで「曲」に返ってくるのである。つまり,
枉(曲)げは,禍,
とつながるのである。さらに「禍」の語源をみると,たとえば,『日本語源広辞典』は,
「マガ(曲)」
とするし,『日本語源大辞典』も,
マカ(曲)の義(言元梯),
マガルの義(和訓栞),
マグ(曲)と同根(小学館古語大辞典),
と,「曲」と「禍」が重なる。『広辞苑第5版』には,「まが」の項で,
曲,
禍,
を当て,
邪なこと,
悪いこと,
としている。つまり,
曲がる,
は,
禍がごと,
なのである。とすれば,
「枉げてお願いします」
と頼まれたとき,禍事をお願いされていることになる。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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