2018年09月24日

まる(丸・円)


「まる」は,

丸,
円,

と当てる。

「圓(円)」(エン)の字は,

「会意兼形声。員(イン・ウン)は,『○印+鼎(かなえ)』の会意文字で,まるい形の容器を示す。圓は『囗(かこい)+音符員』で,まるいかこい」

とあり,「まる」の意であり,そこから欠けたところがない全き様の意で使う。我が国では,金銭の単位の他,「一円」と,その地域一帯の意で使う。

「丸」(漢音カン,呉音ガン)の字は,

「会意文字。『曲がる線+人がからだをまるめてしゃがむさま』で,まるいことを表す。」

とある。もとは,弾丸や丸薬など,丸い粒状のものを意味したようである。我が国では,円形・球状,まるめる,まるごと(全部)の意で使う。丸を接頭語的に,丸裸,丸のまま,というのは我が国だけの用法である(以上『漢字源』)。

なお, 「丸」と「圓」の使い分けは,

圓は,方の対,まんまろきなり,形態に限らず,義理の上にも広く用ふ。圓満,円熟。韓非子に「左手畫圓,右手畫方,不能兩全」
丸は,弾丸なり,丸薬などの如くまんまるくころげるものなり,

とあり(『字源』),どちらかというと,丸は,粒,円は,方形に対し円いという含意である。

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(「一円相(いちえんそう)」「円相図(えんそうず)」 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%86%E7%9B%B8より)

『広辞苑第5版』は「まる」は,

マロの転,

とする。『岩波古語辞典』も,「まろ」を,

「マルの古形。球形の意。転じてひとかたまりであるさま」

とする。『日本語源大辞典』は,

「中世期までは『丸』は一般に『まろ』と読んだが,中世後期以降,『まる』が一般化した。それでも『万葉-二〇・四四一六』の防人歌には『丸寝』の意で『麻流禰』とあり,『塵袋-二〇』には『下臈は円(まろき)をばまるうてなんどと云ふ』とあるなど,方言や俗語としては『まる』が用いられていたようである。本来は,『球状のさま』という立体としての形状を指すことが多い。」

とし,更に,

「平面としての『円形のさま』は,上代は『まと』,中古以降は加えて,『まどか』『まとか』が用いられた。『まと』『まどか』の使用が減る中世には,『丸』が平面の意をも表すことが多くなる。

と,本来,「まろ(丸)」は,球状,平面の円形は「まどか(円)」と,使い分けていたが,「まどか」の使用が減り,「まろ」は「まる」へと転訛した「まる」にとってかわられた,ということのようだ。『岩波古語辞典』の「まろ」が球形であるのに対して,「まどか(まとか)」の項には,

「ものの輪郭が真円であるさま。欠けた所なく円いさま」

とある。平面は,「円」であり,球形は,「丸」と表記していたということなのだろう。漢字をもたないときは,「まどか」と「まる」の区別が必要であったが,「円」「丸」で表記するようになれば,区別は次第に薄れていく。いずれも「まる」で済ませたということか。『日本語源大辞典』には,

「『まと』が円状を言うのに対して『まろ』は球状を意味したが,語形と意味の類似から,やがて両者は通じて用いられるようになる」

とある。なお,「まとか」が,「まどか」と濁音化するのは,江戸時代以降のようである。

とすると,語源は,「まろ」と「まどか(まとか)」と,別々に探るしかない。

『日本語源広辞典』は,「まる」について,

「満(満三年・まる三年)です。manがmaruと音韻変化した語」

として,中国語「満」が語源とする。「満」は,満ちる意であり,「まる」を球形の意にに用いていたことと繋がりは見えるが,これでは,もともと「まろ」と言っていたこととどうつながるのだろうか。

『日本語源大辞典』は,

音を発するときの口の形から(国語溯原=大矢徹・国語の語根とその分類=大島正健),
マアル(真在)の義(日本語原学=林甕臣),
全の義(俚言集覧),

と挙げているが,いずれもちょっと説得力を欠く。僕は,臆説ながら,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/461755507.html?1537386881

で取り上げた,「巻く」と関係があるのではないか,と推測してみる。大言海』は,「巻く」を,

マルククル(円転),

としていた。 僕には,そこから「廻る」との関連が気になった。「廻(まは)る」は,『岩波古語辞典』には,

舞ふと同根,

で,

「平面を旋回する意」

とある。「舞う」の語源を見ていくと,『日本語源大辞典』に,

「類義語『踊る』があるが,それは本来,とびはねる意であるのに対して,『まう』は回る意」

とある。こう見ると,「巻く」は「まる」とつながり,「まる」は「廻る」とつながっていく。「まる」は,

廻る,

という動作や所作から生まれて来たのではないだろうか。

「まどか」の語源は,『日本語源広辞典』は,

「マド(円)+カ(状態)」

とする。『日本語源大辞典』は,

マタキ(全)と通ず(和訓栞・国語の語根とその分類=大島正健),
マタキカタ(全形)の義(名言通),
マトは円の義(語簏),
マロカ(丸所)の義(言元梯),
タマ(玉)トイハンの略か,またマロク(円)の転か(和句解),
陽がのぼると先円い形であるところから,先起日の義(国語本義),

を挙げるが,「まどか」が平面であることを無視した説は捨ててよい。『日本語源大辞典』は,こう付記する。

「『まと』は『またし(全)』と同根で,円環が完成した状態を意味する。」

としている。しかし,僭越ながら,「全き」という抽象概念から,具象的な「円(まどか)」が生まれたということは,文字を持たない和語の状態からは考えにくい。むしろ逆であろう。その意味で,「まと」は,

的,

の「まと」ではないか。「円」を「まと」といい,「的」も「まと」といった(『岩波古語辞典』)。「的」の項で,『岩波古語辞典』は,

「(マト(円)の意か)弓を射る時の目標に立てておく物」

とし,『日本書紀』仁徳十二年の,

「高麗国,鉄の盾・鉄の的を貢る」

を引く。この形から来たという方が,納得がいく。「まと(的)」の語原は,『大言海』も挙げているが,『日本語源広辞典』は,

「マ(目)+処」

で,目あてにする所,とする。『日本語源大辞典』は,

一般的な形状からマトカ(円)の義(名語記・日本釈名・箋注和名抄・本朝軍器考・類聚名物考・名言通),
マト(目処)の義(国語溯原=大矢徹・音幻論=幸田露伴),
メアテシロ(目当代)の転か(和語私臆鈔),
メアテ(正鵠)の義(言元梯),
マは円,トは星の意の斗の意か(和句解),

と挙げ,形に注目させていないが。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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