2018年09月26日
まわる
「まわる」は,
回る,
廻る,
と当てる。「回(囘)」(漢音カイ,呉音エ)は,
「象形。回転するさま,または小さい囲いの外に大きい囲いをめぐらしたさまを描いたもの」
であり,「廻」(漢音カイ,呉音エ)は,
「会意兼形声。『回は,まるく回転するさまをしめす。印は,『廴(ひく,すすむ,行く)+音符回(まわる)』で,ぐるぐるとまわって進むこと」
で, 若干含意に違いはある。
さて,「まわる」は,『日本語源広辞典』に,
「メ(目)が語源です。『マワ(目の回転)+ル』が語源です。『マワ(目の回転)+ス』も同源の他動詞です。」
とする。しかしこれでは,「まわる」という詞を前提にしており,「まわ」の語源を説明しなければ,語源として中途半端である。
『岩波古語辞典』は,
「マヒ(舞)と同根。平面上を旋回する意。」
とある。これだと,『日本語源広辞典』の「マワ(マハ)」の説明になっている。
「舞ふ」の項では,『岩波古語辞典』は,
「マハリ(廻)と同根。平面上を旋回運動する意。類義語ヲドリは,跳躍運動する意が原義」
とある。「まい・おどる」の項,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/448651477.html
で触れた。この「まわる」については,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/461823271.html?1537729696
でも触れたように,「まる(丸・円)」は,「巻く」と関係があると推測する。『大言海』は,「巻く」を,
マルククル(円転),
としていた。 当然そこから「まわる」との関連し,「まわる」は「舞う」とつながり,「まる(丸・円)」と「巻く」ともつながる。言葉が,動作や振舞を起源とすることは多い。
「舞う」について,『日本語源広辞典』は,
「マ(回)+フ(継続)」
とし,『日本語源大辞典』の諸説も,
マハス(廻)の義(名言通),
マハルの約(名語記・和句解),
マハリフル(廻経)の義(日本語原学),
マハルと同根(岩波古語辞典),
円状に回転するところか,マロ(円)の転(日本語原考),
マヒのマはタマ(玉)・マル(丸)・マワル(廻)などの語幹(日本古語大辞典)
マは周の義,フは進む義(国語本義)
幻術の意の梵語マヤから(和語私臆鈔),
等々,「まわる」と絡まっている。つまり,
まう→回る→巻く→まる(丸・円),
と,動作から抽象概念へと抽出されていくプロセスなのではないか。
「くるま(車)」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/458661930.html)も,
「くるくる」回る,
という擬態語から来ている。『擬音語・擬態語辞典』には,
「『くるくる』は平安時代から見られる語で,奈良時代には『くるる』と言った。「枢」(くるる)は,「くるぶし」て触れたように(http://ppnetwork.seesaa.net/article/458644074.html?1523042309),
回転軸となる軸材,
の「まわる」機能からきている。『大言海』は,
「クルは,回轉(くるくる)の義,マは,輪と通ずと云ふ(磯間[いそま],磯曲[いそわ]。曲[ま]ぐる,わぐる)。或は,クルクル廻はる意か」
とある。これも,回るという擬態語から,「くるま」が抽出されている。「まわる」は「舞う」から来たと見ていいと思う。
ちなみに,似た語で「めぐる(廻る・巡る・回る)」は,
「物の周囲を一周りするように囲む意。転じて,一つ方向に順次移動して,再び出発点に戻る意。類義語ミ(廻)は,曲線にそって動く意,モトホリ(廻)は,ひとつ中心をぐるぐる回る意。マハリ(廻)はマヒ(舞)と同根で,平面上を大きく旋回する意」
とある。「まわる」は,主体的な視点なのに対して,「めぐる」は,客体的な視点名の気が,基本的に違う。廻り方の差というよりは,発話の視点の差なのではないか,と思う。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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