2018年10月01日

神無月


神無月(かんなづき)は,陰暦十月の異称である。『広辞苑第5版』には,

カミナヅキの音便,

とある。『大言海』は,「かみなづき」の項に載る。

「神無(かみな)は當字なり,醸成月(かみなんづき)の義(萬葉集…『十月(かみなづき)』の條に,古義の記せる大神景井の説),萬葉集…『味飯(うまいひ)を,水(酒)に醸成(かみなし)云々』。十月は,翌月の新嘗(にひなめ)の設けに,新酒を醸す月の義なり(睦月の語原を見よ)。借字に就いて言ひしは,曾丹集,十月『何事も,行きて祈らむと思ひしを,社(やしろ)はありて,神無月かきな』。是れ等,古かるべきか,花山天皇の頃の人なり。藤原清輔(治承元年卒)の奥義抄,上,末に『十月(かみなづき),天下のもろもろの神,出雲國に行きて,異国(ことくに)に神無きが故に,かみなし月と云ふをあやまれり』とあり,是等に因りてか,従来,紛々の説あれど,神々の,出雲の集りたまふこと古典に絶えて據りどころなききが如し,一切,妄説なるべし」

とある。なお,「(睦月の語原を見よ)とあるのは,睦月(http://ppnetwork.seesaa.net/article/455932349.html)で触れたようにに,『大言海』は,「むつき(睦月・正月)」の項で,

「實月(むつき)の義。稲の實を,始めて水に浸す月なりと云ふ。十二箇月の名は,すべて稲禾生熟の次第を遂ひて,名づけしなり。一説に,相睦(あひむつ)び月の意と云ふは,いかが」

とし,

「三國志,魏志,東夷,倭人傳,注『魏略曰,其俗不知正歳四時,但記春耕秋収為年紀』

を引いて,「相睦(あひむつ)び月の意」に疑問を呈して,「實月」説を採っていた。

要は,「神無月」は当て字であり,「神無」を「神が不在」と解釈するのは,その当て字を基にした解釈にすぎない,と言うことに尽きる。『日本語源広辞典』も,

「国中の神が出雲にいらっしゃって,不在になる月という…説は平安期の付会」

と見ている。逆に,出雲地方には神々が集まるだろうという俗信が生じ、出雲地方では、10月が神在月(あるいは神有月)と呼ばれるようになった,というのも俗説であり,これも、中世には唱えられていた,という。

「藤原清輔(治承元年卒)の奥義抄,上,末に『十月(かみなづき),天下のもろもろの神,出雲國に行きて,異国(ことくに)に神無きが故に,かみなし月と云ふをあやまれり』」

と,どうやら平安期に出た俗説らしいが,

「出雲大社に全国の神が集まって一年の事を話し合うため、出雲以外には神がいなくなるという説は、中世以降の後付けで、出雲大社の御師が全国に広めた語源俗解である。高島俊男は、『月の名で、師走と同じくらい古い民間語源を有するのが「神無月」である。十月には各地の神さまがみな出雲へ行ってしまって不在になるので神無月、という説明で、これも平安時代からある。『かみな月』の意味がわからなくなり、神さまがいないんだろうとこんな字をあてたのである。『大言海』は醸成月(かみなしづき)つまり新酒をつくる月の意だろうと言っている。これも憶測にすぎないが、神さまのいない月よりはマシだろう。』と評している。」

とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E7%84%A1%E6%9C%88)。あるいは,

「《古事記》《日本書紀》における出雲系神話の量は多大であるし,歴史時代に入ってからでも,出雲の場合は国造制を最後までのこし,その出雲国造(くにのみやつこ)は代替りごとに参朝して神賀詞(かんよごと)を奏上するという慣行をもった。そのような古代以来の実績と直接つながるかどうかは不明であるが,やがて中世になると,ここにいわゆる〈神在月(かみありづき)〉なる伝承をもつようになる。すなわち旧暦10月を他国では神無月(かんなづき)というが,ひとり出雲国では神在月という。」(『世界大百科事典』)

と,出雲信仰とのつながりがあるのかもしれない。

結局「神無月」の語源は不詳である(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E7%84%A1%E6%9C%88)と言うほかないのだが,

「有力な説として、神無月の『無・な』が『の』にあたる連体助詞『な』で『神の月』」

という説があり(「水無月」が「水の月」であることと同じ),『日本語源広辞典』も,

「神+の+月」

説を採る。『語源由来辞典』(http://gogen-allguide.com/ka/kannazuki.html)も,

「神を祭る月であることから『神の月』とする説が有力とされ、『無』は『水無月』と同じく『の』を意味する格助詞『な』である。」

とする。しかし,僕には,この月だけ,急に神に関わる月名を採るというのは解せない。

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(三代歌川豊国『神無月 はつ雪のそうか』 「そうか」夜鷹を指した。https://edo-g.com/blog/2016/02/soba.html/soba8_lより)


「憶測にすぎないが、神さまのいない月よりはマシだろう」(仝上)と評された,「水(酒)に醸成(かみなし)」とする『大言海』説と同じなのが,『日本語の語源』で,

「米を噛んで酒をつくったことから,酒を造りこむことをカミナス(噛み成す)といったのがカミナス(醸み成す)に転義した。正月用の酒を造りこむ月という意味で,カミナシ(醸み成し)月といったのがカンナヅキ(神無月。陰暦十月の異称)になった」

としている。諸説は,『日本語源大辞典』(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E7%84%A1%E6%9C%88も合わせ)によれば,

諸神が出雲に集合し、他の地では神が不在になる月であるから(奥義抄、名語記、日本釈名),
諸社に祭りのない月であるからか(徒然草、白石先生紳書),
陰神崩御の月であるから(世諺問答、類聚名物考),
カミナヅキ(雷無月)の意(語意考、類聚名物考、年山紀聞),
カミナヅキ(上無月)の義(和爾雅、類聚名物考、滑稽雑談、北窓瑣談、古今要覧稿),
カミナヅキ(神甞月)の義(南留別志、黄昏随筆、和訓栞、日本古語大辞典=松岡静雄),
新穀で酒を醸すことから、カミナシヅキ(醸成月)の義(嚶々筆語、大言海・日本語の語源),
カリネヅキ(刈稲月)の義(兎園小説外集),
カはキハ(黄葉)の反。ミナは皆の意。黄葉皆月の義(名語記),
ナにはナ(無)の意はない。神ノ月の意(万葉集類林、東雅),
一年を二つに分ける考え方があり、ミナヅキ(六月)に対していま一度のミナヅキ、すなわち年末に近いミナヅキ、カミ(上)のミナヅキという意からカミナヅキと称された〔霜及び霜月=折口信夫〕,

等々がある。因みに,出雲大社の御師の活動がなかった沖縄においても、旧暦10月にはどの土地でも行事や祭りを行わないため、神のいない月として「飽果十月」と呼ばれるという(仝上)。

これまで触れてきたように,

師走(陰暦十二月 http://ppnetwork.seesaa.net/article/455892480.html
睦月(陰暦一月 http://ppnetwork.seesaa.net/article/455932349.html
如月(陰暦二月 http://ppnetwork.seesaa.net/article/456805354.html
弥生(陰暦三月 http://ppnetwork.seesaa.net/article/457607450.html
卯月(陰暦四月 http://ppnetwork.seesaa.net/article/457762501.html
皐月(陰暦五月 http://ppnetwork.seesaa.net/article/458763376.html
水無月(陰暦六月 http://ppnetwork.seesaa.net/article/459166730.html
文月(陰暦七月 http://ppnetwork.seesaa.net/article/459184411.html
葉月(陰暦八月 http://ppnetwork.seesaa.net/article/460695958.html
長月(陰暦九月 http://ppnetwork.seesaa.net/article/460732975.html

すべて,農事と関わる月名であった。。「長月」(陰暦九月)が,

「稲熟(いなあがり)月の約かと云ふ」(大言海),

なら,「神無月」は,

カリネヅキ(刈稲月)の義(兎園小説外集),

が順序として最も妥当に思えるが,如何であろうか。それにしても,「神の無い月」の俗説が席巻したのか,陰暦十一月だけは,異称が神無月だけしかない。この月だけの現象である。

参考文献;
http://www.seikado.or.jp/collection/colorprint/004.html
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E7%84%A1%E6%9C%88

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:神無月
posted by Toshi at 05:03| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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