オトリ
「おとり」は,
囮,
と当てる。
他の鳥獣を招きよせてとらえるための鳥獣,
の意とあり(『広辞苑第5版』),これだと意味が分かりにくいが,
鳥や獣を捕らえようとするとき、誘い寄せるために使う同類の鳥・獣,
だと,その意がよく通じる(『デジタル大辞泉』)。
椋 (むく) の木におとり掛けたり家の北,
という子規の句があるそうである。
この意をメタファに,
他の者を誘いよせるために利用する手段,
という意に広がったらしい。
媒鳥,
とも当てるらしいので,分かりやすい。『広辞苑第5版』には,
ヲキとリ(招鳥)の略か,
と載る。鳥獣というより,鳥を捕える手段だったのではないか。『大言海』には,
「招鳥(をきとり)の略。説文『率鳥者,繋生鳥以来之,名曰囮』」
とあり,
「鳥を繋ぎ置きて,他鳥を誘い捕ふるに用いるもの」
とある『倭名抄』には,
「媒鳥,少養雉子,至長狎人,能招引野雉者,乎度利」
とあり,『字鏡』には,
「囮,袁止利,鳥以呼鳥」
とあり,『東雅』には,
「囮,テテレ,云々,テテレとは,トトリト云ふ語の轉ぜしに似たり。ヲトリと云ふは,招引之義なるに似たり」
とあり,いずれも,鳥,あるいは特定して雉としているので,鳥を捕える手段であったらしいことがわかる。
餌の意で,人を引き寄せる手段という意味に転じたのは,江戸時代と思われる。『大言海』には,『東海道中膝栗毛』(享和)の,
「兩側より,旅雀のヲトリに出しておく留女の顔…」
と,遂に人を招く「招鳥」に使われるようになる。
『日本語源広辞典』も,
「オキ(招くの連用形)+鳥」の音韻変化,
とする。「招き」は,
「神や尊重するものなどを招きよせる」
とある(『岩波古語辞典』)。
正月(むつき)立ち春の来たらばかくしこそ梅を招(を)きつつ楽しき終へめ,
という万葉集の歌があるらしい。この含意と,「をとり」(囮)のいみとは,どうも重ならない気がするが,
招餌(をきえ),
という言葉があり,
鷹を招きよせる餌,
とあり(大言海),
拾遺集の,
「おしあゆ,『はし鷹のをきゑにせんと構へたる,オシアユがすな,鼠とるべく』」
の例があり,やはり,「招(おき)鳥」だと納得する。ただ,オトリにするにしても,その仕方で,
鳥の脚に緒をつないで,余鳥を捕える媒とすることから,ヲトリ(緒鳥)か(言元梯),
ヲトリ(雄取)の義(和訓栞・柴門和語類集),
ヲソトリ(偽鳥)の義か。ヲソは野鳥の義(名言通),
等々の異説もある。
なお,「囮」(カ,ガ)の字は,まさに「他の鳥を招きよせるため籠に入れて見せびらかす飼い鳥」の意。
「会意兼形声。化は,立ったひとがしゃがんだ形に姿を変えたことを示す会意文字。囮は『囗(かこい)+音符化』で,姿を変えて相手をだますオトリを,かこいの中に入れたことを表す」
である。
偽客の意のサクラについては,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/439884163.html
で触れた。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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