「下駄を預ける」の「下駄」は,「下駄をはかせる」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/414131601.html)の項で触れたように,
「下(低い)+タ(足板)」
で,木製の低い足駄(あしだ)の意味らしい。足駄(あしだ)自体がよくわからなくなっているが,
屐とも書き,また屐子 (けいし) ともいう。主として雨天用の高下駄。木製の台部の表に鼻緒をつけ,台部の下には2枚の差歯がある。足下または足板の転訛した呼称といわれる。
とある。これだと区別がつかないが,
①(雨の日などにはく)高い二枚歯のついた下駄。高下駄。
②古くは,木の台に鼻緒をすげた履物の総称。
足駄の方が上位概念らしい。下駄自体は,中世末,戦国時代が始まりらしいが(「下は地面を意味し,駄は履物を意味する。下駄も含めてそれ以前は,『アシダ』と呼称されたという説もある),その中で,近世以降,雨天用の高下駄を指すようになったものらしい。
『日本語源大辞典』には,
「ゲタという語が用いられるようになったのは,中世末からのことであり,それ以前はアシダ(足駄),ポクリ(木履)などと呼ばれていた。ただ,近世には,江戸では,髙い下駄をアシダ,低いものをゲタと区別し,一方,上方では,区別せずに,ともにゲタとよんでいた」
とある。
「下駄を預ける」は,
すべてを相手を頼んで,処理を一任する,
という意味だが,
(自分に関する問題などに関して)決定権を譲り全面的に相手に任せる(自分では動けなくなることから)
というニュアンスがある。もっとえげつなく言うと,
責任を押しつける,
という含意がある。『日本語源広辞典』には,語源は,
遊郭や芝居小屋で下足番に下駄を預ける,
という意味であり,転じて,
自分の身の振り方を任す,
という意になり,さらに転じて,
自分は動かず,すべて相手または,第三者に処置を任せる,
という意味になった,とある。しかし,『江戸語大辞典』には,載らない。
遊郭や芝居小屋で下足番に下駄を預ける,
という意味は,「下足」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/462222778.html?1539719862)で触れたように,「履き物」が高価であった時代を反映しているが,そのせいか,「下駄を預ける」には,
芝居や寄席で、下足番(げそくばん)に下駄を預けることに由来する,
という説,つまり文字通り,「下駄をあずけた」ことから,
下足番を通さずには帰るわけにいかない,
ということから由来するというのが最も説得力があるが,それ以外に,遊里や演劇から来たとして,
「本来は断りにくい言いがかりをつけて。相手の答えを待つ意味だったのが、相手に処置を押し付ける意味に変わった」
という説,的屋(てきや)言葉から来たとして,
「親分に身柄をあずけるのを『ゲタをあずける』と使ったことに由来する」
という説もあるらしい。しかし,残りの二説は,文字通り「下駄をあずける」行為そのものを喩えとして使いっいるわけで,それ自体が流布していなければ通用しない気がする。やはり,下足に絡んだ言い回しから由来すると見るのが妥当な気がする。『語源由来辞典』(http://gogen-allguide.com/ke/getawoazukeru.html)も,
「他人に下駄をあずけてしまと,その場から自由に動けなくなる。後は,預かった人の心次第で,自分はじっとしているしかないところからまれた言葉」
としているし,「舞台・演劇用語」(http://www.moon-light.ne.jp/termi-nology/meaning/getawoazukeru.htm)も,
「江戸時代には、芝居小屋や寄席、遊郭などに遊びに出かけると、履き物を下足番に預け、裸足で入場していました。当然、履き物を返してもらわなければ帰路につくことさえできませんので、履き物=下駄を預けるというのは、相手に委ねるという意味となり、この風習から生まれた比喩が、一般的に使われるようになったということです。」
と,下足由来説を採る。
参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:下駄を預ける