2018年10月21日

にっちもさっちも


「にっちもさっちも」は,

二進も三進も,

と当てる。どうやらそろばんの用語から来たものらしい。『広辞苑第5版』には,

「金銭の融通のきかないさま,また,一般に物事が行き詰まってみ呉今日もの取れないさまにいう」

とある。『デジタル大辞泉』には,

「そろばんの割り算から出た語で、計算のやりくりの意」

とある。正確には,「下に打ち消しを伴って」(『大辞林第三版』),

二進も三進もいかない,

と使う。『江戸語大辞典』には,

「二進(にちん)三進(さんちん)」

と訓ませている。

「『二進』とは2割る2,『三進』とは3割る3のことで,ともに割り切れ,商に1が立って計算できることを意味した。それがうまくいかないということで,金銭的やりくりがつかない,商売がうまくいかないという意味で用いられるようになり,のちに,身動きが取れない意味へと転じた」

とある(https://proverb-encyclopedia.com/nitimosatimo/)が,この説明ではしっくりと来ない。同趣旨の説明をするのが,『語源由来辞典』(http://gogen-allguide.com/ni/nicchimosacchimo.html)で,

「『にっち』は『二進(にしん)』,『さっち』は『三進(さんしん)』の音が変化した語。『二進』とは2割る2,『三進』とは3割る3のことで,商1が立って計算ができることを意味していた。そこから,2や3でも割り切れないことを『二進も三進も行かない』と言うようになり,しだいに計算が合わないことを意味するようになった。さらに,商売が金銭面でうまくいかないことの意味になり,身動きがとれない意味へと変化した。」

とある。やはり,しっくりしない。『笑える国語辞典』,

https://www.fleapedia.com/%E4%BA%94%E5%8D%81%E9%9F%B3%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9/%E3%81%AB/%E4%BA%8C%E9%80%B2%E3%82%82%E4%B8%89%E9%80%B2%E3%82%82%E3%81%A8%E3%81%AF-%E6%84%8F%E5%91%B3/

も,

「二進(にっち)も三進(さっち)もは、『二進も三進も行かない』などと用い、行き詰まって身動きがとれない状態を言い表す。『二進』『三進』という漢字を見ると、『二歩進めないなら三歩進めないのは当たり前だろ』というようなツッコミを入れたくなってしまうが、残念ながら、この『二進』『三進』はソロバンの用語で、それぞれ『二割る二』『三割る三』を意味する。『二進』『三進』も割り切れるところから、計算のやりくりがつくことをいい、それを否定した『二進も三進も行かない』は、割り切れない、やりくりがつかないという意味になり、やはり『二歩進めない』うんぬんは的はずれなツッコミといわざるをえないのである。」

とし,割り切れる意からそれを否定する真逆の意に転じた,とする。そうなのだろうか。

『日本語源大辞典』は,

「算盤の割算の九九の『二進一十(にしんいんじゅう)』『三進一十(さんしんいんじゅう)』から出た語で,これらがそれぞれ,二を二で割ると割り切れて商一が立つこと,三を三で割ると割り切れて商一が立つことを意味するところから,計算のやりくりを指す。多く,『にっちもさっちも行かない』の形で,どうにもやりくりがきかないさま,窮地に追い込まれたりして身動きできないさまなどにいう」

とある。これでもやはり意味がはっきりしないが,『日本語源広辞典』には,

「『算盤の九九,二進一十,三進一十』が語源です。それぞれの商は一,繰り上がらないから,遣り繰りがのつかない意で使います」

とある。これのほうが僕には納得できる。『大言海』の,

如何に勘定しても,

の意は,これでわかる。

「二進」(にしんがいんじゅう,にしんがいっしん),「三進」(さんしんがいんじゅう,さんしんがいっしん)は,割算の掛け声(割算九九(割声))で,

「そろばんのわりざんには、商除法と帰除法があります。現在一般に行われているのは商除法で、かけざん九九を使って商を見つけます。帰除法は昔使われていた方法で、割算九九(割声)を覚えて計算するものです。」

とある(http://anchor.main.jp/warizannkuku.htm)。例えば,

「(例1) 12÷2=6 そろばんに12をおく。わる数の二の段でわられる数12の先頭の数を見て、二一天作五と1を5にして1をはらう。次にわられる数の残り2を見て、二進一十と2をはらって10をいれる。すると答えが6となる。」
「(例2) 158÷2=79 そろばんに158をおく。わる数の二の段でわられる数158の先頭の数を見て、二一天作五と1を5にして1をはらう。次にわられる数の残りの先頭5を見て、二進一十と2をはらって10をいれる。これを繰り返す。するとそろばん面は718になり、7は答え。次に残り18の先頭の数1を見て、二一天作五と1を5にして1をはらう。次は8を見て、二進一十を繰り返す。すると答えが79となる。」

となる(仝上)。

どうやら,「2割る2」と割り切れるようにはいかない,という意の「二進も三進も」か,「2割る2」で割り切れて繰り越さない意の「二進も三進も」か,ということだが,僕は,根拠はないが,後者の方がすっきりする。

因みに,「算盤」は,「算盤」の訓の,

「サンバン→ソァンファン→ソランバン→ソロバン」

と変化したもの(『日本語源広辞典』)。『日本語源大辞典』には,

「『そろばん』が伝来する以前は,計算用具としては算木が使用されていた。『そろばん』の中国からの伝来が室町末期であること,現代中国語でも『算盤』を使用していることなどから,『そろばん』は『算盤』の唐音ソワンバンの日本語化といわれる。」

とある。中国では,

「中国では紀元前の頃から紐の結び目を使った計算方式や、算木を使用した籌算(ちゅうざん)と呼ばれる独自の計算方式があった。これらは紐や竹の棒や木の棒で計算していたものであり、桁を次々に増やせる利点はあるが珠の形ではない。珠の形になったのは2世紀ごろの事と考えられ、『数術記遺』と言う2世紀ごろの書籍に『珠算』の言葉がある。」

とか(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%9D%E3%82%8D%E3%81%B0%E3%82%93)。

「二進も三進も」の類語としては,

前門の虎後門の狼,
進むも地獄退くも地獄,

よりは,

進退両難,

がピタリ重なる気がする。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)


ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:55| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください