2018年10月23日

蛇足


「蛇足」は,

画蛇添足(蛇を画きて足を添う),
蛇足をなす,

とも言う。

あっても益のない余計なもの,
あっても無駄なもの,
不要なもの,

というよりも,

余計な行い,

という含意に思える。出典は,『戦国策』の「斉策」であるらしい。『戦国策』 については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/445615729.html

で触れた。

「前漢末に,学者劉向(りゅうきょう 前七七-前六)が命ぜられて天子の書庫の整理をしたとき,『国策』『国事』『探長』『事語』『長書』『脩書』などという錯乱した竹簡があった。みな戦国のとき(春秋以後の二百四十五年間)の遊説の士が国々の政治への参与を企てて,その国の為に建てた策謀であったので,劉向は国別にしているものに基づいて,それぞれほぼ年代順に整え,重複を刪(けず)り,三三篇として『戦国策』と名づけた。」

ものである。多く歴史書というよりは,

奇知縦横の言論や説得の技法の習練,

を意とするもので,『戦国策』に登場する説士(ぜいし)が本当にこれほど活躍したのかどうかは疑わしく,縦横家,遊説の士にとっての教科書と言うようなものということだ。

とすると,蛇の絵を描く競争で,早く描き上げた者が,足まで書き添えて負けたという故事は,ただの寓話の類ではなく,為にする喩えといっていい。

楚の昭陽将軍が魏の国との戦いに勝利し,更にました。斉(せい)の国にも戦いを挑もうとするのを,斉の国王が陳軫(ちんしん)という縦横家(じゅうおうか)に相談した。その依頼を受け、昭陽将軍との会談の際に用いた喩え話である。その陳軫が,昭陽将軍に語った寓話である。

その原文は,

楚有祠者。賜其舎人卮酒。舎人相謂曰、
「数人飲之不足。一人飲之有余。請画地為蛇 先成者飲酒。」
一人蛇先成。引酒且飲之。乃左手持卮、右手画蛇曰、
「吾能為之足。」
未成、一人之蛇成。奪其卮曰、
「蛇固無足。子安能為之足。」
遂飲其酒。為蛇足者、終亡其酒。

とあるらしい。つまり,

「楚(紀元前3世紀頃まであった国)の人が先祖の祀りをした後、近侍の者大杯に一杯の酒をふるまいました。近侍の者たちは相談しました。『数人で飲めば足りないが,一人で飲むなら有り余るほどだ。これはひとつ,地面に蛇の絵をかいて,先にかき上げたものが飲むことにしてはどうか』。すると一人の者が先に蛇の絵をかきあげて,酒を引き寄せて,いまに飲もうとしながら,左の手で杯を持ち,右手で蛇をかき続け,『れは足までかく暇まである』と申しました。その足がかき終らないうちに,ほかの一人のかいていた蛇が出来上がりました。先の者が持つ杯を奪い取り,『蛇に足があってたまるものか,おまえに足がかけようはずがない』と言って,その酒を飲んでしまいました。蛇の足をかいていた者は,と酒を飲み損なったのです。」

である(『戦国策』)。もちろん,これは,単なる寓話なのではない。この話を為にしたのである。『戦国策』

蛇足を為す者は終に其の酒を失う,

の項に,こういうやりとりが載る。

君今相楚而攻魏,破軍殺将,得八城不弱兵,欲攻斉。
斉畏公甚。
公以是為名居足矣。
官之上,非可重也。
戦無不勝而不知止者,身且死,爵且後帰。
猶為虵足也。
昭陽以為然,解軍而去。

「いま,あなたは楚の宰相として魏をお攻めになり,魏の郡を破り,魏の将を殺し,八城を奪い取りながら,兵力を損傷することなく,さらに斉を攻めようとなさっています。斉ではあなたを恐れておりますのは,大変なものです。あなたはそれでもって栄誉となされば十分です。これまでの功績でお受けになる官爵の上に,さらに加えうる官があるわけではないのです。戦って負けたためしがないというので,とどまるところをお忘れになりますと,お亡くなりになった場合,爵は死後の身にお受けになることとなります。それでは蛇の足をかくようなものでしょう」

と。このやりとりには前段がある。陳軫は,昭陽将軍に尋ねる。

陳軫為斉王使,見昭陽,再拝賀戦勝,起而問。
楚之法覆軍殺将,其官爵何也。
昭陽曰,官為上柱国,爵為上執珪。
陳軫曰,異貴於此者,何也。
曰,唯令尹耳。
陳軫曰,令尹貴矣。
王非置両令尹也。

つまり今回の戦勝の功に対し,与えられるのは,

官は上柱国(じょうちゅうこく),爵は上執珪(じょうしつけい),

であり,この上は,令尹(れいいん)のみという。

楚王が二人の令尹を置くだろうか,

と疑問を投げかけた上で,

臣窃為公書,

と,蛇足の喩え話をするのである。要は,

「あなたはもうずいぶん功を立てました。これ以上勝っても望む出世には限度がありましょう。あまりに調子に乗りすぎると身の破滅を招きます。大勝利を得たこのへんで引き揚げてはいかが」

という含意か(http://chugokugo-script.net/koji/dasoku.html),

「たとえ斉への侵攻に成功してたとしてもそれ以上は出世しようが無いのに、失敗に終わった場合の、失脚の危険を犯す必要があるのか、ということを蛇足の話を用いて説得したのである。」

という含意か(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%9B%87%E8%B6%B3),

どちらか,多少ニュアンスの差はあるが,これ以上の功名は,蛇足だと言いたかったらしいのであるが,勝ちに勝っている将軍に,これで説得できるかどうかは,ちょっと疑わしいように思えるのだが。

参考文献;
近藤光男編『戦国策』 (講談社学術文庫)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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