2018年10月30日

ぼんくら


「ぼんくら」は,

盆暗,

と当てるらしいが,当て字の感じである。

ボンクラ,

とも表記する。「シカト」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/461268136.html)で触れたが,「ボンクラ」は,

「漢字になおすと『盆暗』。盆は博打場のことであり、ここで目端が利かず負けてばかりの人間をさす言葉が一般語化しました。」

という。この説が大勢らしく,

「もと,ばくちの語で,采(さい)を伏せた盆の中に眼光が通らないで常に負けるという意」

とし,

ぼんやりしていて,ものがわかっていないさま,また,その人,

という意味とする(『広辞苑第5版』)。しかし,どんな人も盆の中が見えるはずはない。この博奕は,

「丁半では、偶数を丁(ちょう)、奇数を半(はん)と呼ぶ[1]。茶碗ほどの大きさの笊(ざる)であるツボ(ツボ皿)に入れて振られた二つのサイコロ(サイ)の出目の和が、丁(偶数)か、半(奇数)かを客が予想して賭ける」

丁半博打(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%81%E5%8D%8A)である。

「2つのサイコロを区別して転がして目が出たとき「全体の」場合の数は36。「出た目の和が偶数の」場合の数、「出た目の和が奇数の」場合の数は、それぞれ18。丁(偶数)または半(奇数)の確率は1/2である。」(仝上)

眼光の問題ではあるまい。『笑える国語辞典』も,

https://www.fleapedia.com/%E4%BA%94%E5%8D%81%E9%9F%B3%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9/%E3%81%BB/%E3%81%BC%E3%82%93%E3%81%8F%E3%82%89-%E7%9B%86%E6%9A%97%E3%81%A8%E3%81%AF-%E6%84%8F%E5%91%B3/

「ぼんくらは『盆暗』と書くように、サイコロ賭博などを行う場(=盆)において勝負の行方が読めない(=暗)ことをいったものである。しかし、サイコロ賭博などで勝負の行方は誰も読めないものであり、手数料収入により必ず儲かることになっている胴元以外、そこに集まっている連中はみんな『ぼんくら』といってもいいようなものである。」

としているほどである。しかし,大勢は,

「もと博打用語で、盆の上の勝負に暗い意」(『大辞林』),
「博奕の語。簺を伏せたる盆の中に,眼光とほらず,負目にのみ賭ける気の利かぬこと。またそのもの」(『大言海』),
「盆の上の目利きが暗いこと」(盆暗と蔵前を掛けて,「盆暗前」という言い方もあった)(『江戸語大辞典』)
「ぼんくらとは盆暗と書く賭博用語で、盆の中のサイコロを見通す能力に暗く、負けてばかりいる人のことをいった。ここから、ぼんやりして物事がわかっていないさま、間が抜けたさま、更にそういった人を罵る言葉として使われる。」
(『日本語俗語辞典』http://zokugo-dict.com/30ho/bonkura.htm),
「『ぼん』は博打でサイコロを振りだすところ、『盆』のこと。盆に伏せた壺の中のサイコロの目が読めない意で『ぼんくら(盆暗)』」(『由来・語源辞典』http://yain.jp/i/%E3%81%BC%E3%82%93%E3%81%8F%E3%82%89),

等々とする。『日本語源広辞典』も,

「語源は『バクチの盆に暗い』です。常に負けるので,盆暗です。異説として『盆の頃に壁を塗った蔵(壁下地が腐りやすく長持ちしない)』ので,ボンクラだとする説がありますが,付会説でしょう。」

とするし,同じく,『語源由来辞典』(http://gogen-allguide.com/ho/bonkura.html)も,

「ぼんくらは、盆の上での勝負に対する目利きが暗いことから、勝負によく負ける人を賭博 用語で『盆暗』と呼んだことが語源とされる。 別説では、お盆の暑い頃に蔵の土を塗ると 乾きが均等にならないため、お盆に造られた蔵を『盆蔵(ぼんくら)』と言いったことによるとする説もある。しかし、漢字『盆蔵』が使われた例が見られないことや、『蔵』は『くら』と読むにも関わらず、『暗』の字に転じた経緯が定かでなく、不自然なことから俗説と考えられる。また意気地なしのことを『ぼんくら』と言った例があるため、幼児を意味する『坊』が変化した『ぼん』に『盆』が当てられたとする説もある。」

と同趣旨である。しかし,「建築用語」(http://www.caguya.co.jp/blog_hoiku/archives/2007/09/2_10.html)として,

「ダメな人とか頭の鈍い人のことを『ボンクラ』といいますが、この言葉を漢字で書くと『盆暗』とか『盆蔵』と書きます。『盆暗』と書く場合は、『盆』は賭博の盆ござのことで、盆の事に暗い。つまりサイコロの目の動きを読んだりする事が下手な人という意味に使われていたのが、頭のにぶい人を指す言葉となりました。『盆蔵』と書く説は、盆は八月のうら盆の盆で、蔵は土蔵をさします。土蔵造りは普通寒い季節にしますが、これを夏の暑いときにすると、土の表面ばかり乾燥して、平均して乾かないので、役に立たない土蔵になってしまいます。それで盆の頃造られた蔵、つまり『盆蔵』は駄目だということから、駄目な人の事を『盆蔵』と言います。」

と,別々に説明している。これをみると,はじめ「ぼんくら」という言葉があって,それに,それぞれの立場で,

盆暗,
盆蔵,

と当てただけなのではないか,と思えてくる。

『日本語源大辞典』は,

賭博用語で,盆の上での勝負に対する眼識が暗い意(大言海・ことばの事典=日置昌一・すらんぐ=暉峻康隆・上方語源辞典=前田勇),
賭博用語で,サイコロを振り,勝負を見極める胴親の補助役が,勝った方に渡すコマを間違えることで,盆の上での計算に暗い意(サイコロの周囲=加太こうじ),
ボンは小児の意の坊の訛(俚言集覧),

が載る。

「勝負を見極める胴親の補助役が,勝った方に渡すコマを間違えること」

ならば,賭場の内々の言い回しとしてよく分かる。丁半博奕は,

「盆蓙(ぼんござ、盆茣蓙とも)と呼ばれる、綿布団に四隅に鋲を差して固定した盆台(ぼんだい)の上に幅二尺(約60cm)長さ二間(約3.6m)の金巾などで作った盆切れを置き、その周囲に審判員兼進行係の中盆(なかぼん)、中盆に従ってサイコロを振るツボ振リ、あとは客が座り、後述のルールに沿って賭博の進行を行った。」

とあり(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%81%E5%8D%8A),

「客は勝負の前に、賭け金として使う現金を博徒が用意したコマ札に替え、勝負の間はこのコマ札で取引をした。コマ札の材質は木、竹、紙などさまざま」(仝上)

これだとよく分からないが,詳しくは,

「盆座を中心にして、『壺振り(つぼふり)』と『中盆(なかぼん)』が向かい合って座る。『張る』客の座も決まっていて、丁(偶数)を張る者が中盆の側に座り、半(奇数)を張る者は壺振りの側に座る。賭場の元締めとなる胴元(どうもと)はおらず、丁を張る者と半を張る者は、賭け金の総額が等しくなければならない。用意がととのうと、中盆が『壺』と号令をかけ、壺振りが賽子を壺笊(つぼざる)に入れて振り、場に伏せる。それから、参加者がそれぞれに賭ける。丁半が対等になると、中盆が『勝負』と言って、壺笊をあけ、勝負が決まる。テラ銭(寺銭)は、原則が4分で、『6』の目がそろう『ビリゾロ』のときは1割であるとか、数字がそろう『ゾロ』のときに取るとかの方法があった。」(https://imidas.jp/jidaigeki/detail/L-57-136-08-04-G252.html

となる。で,出目の判定をした「中盆」に従って,客のコマのやりとりがある。それを間違えた,と言うことである。

しかし,

「盆暗」

「盆蔵」

と当て分けた,元は,億説だが,「盆」の「ぼん」は,

ぼんやり,

の「ぼん」だったのではないか。

「『ぼんくら』は『ぼんやり』よりもさらに『どうしようもないやつ』というニュアンス」

という(『擬音語・擬態語辞典』)。勝手な臆説を加えるなら,「くら」は,

暗,
闇,

と当てる「くら」ではないか。

ぼんやり+くらし(暗・闇)→ぼんくら,

と。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:54| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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