2018年11月01日
いちかばちか
「いちかばちか」は,
一か八か,
と当てる。
運を天にまかせて冒険すること,
の意で,
運否天賦(http://ppnetwork.seesaa.net/article/455489170.html),
のるかそるか(http://ppnetwork.seesaa.net/article/455466721.html),
と同義。それぞれすでに触れたことがある。
「運否天賦」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/455489170.html)で触れことと重なるが,「いちかばちか」には,
『語源由来辞典』(http://gogen-allguide.com/i/ichikabachika.html)の言うように,
「一か八かは博打用語で、『一』 は『丁』、『八』は『半』の各漢字の上部分をとったもので、丁半賭博などの勝負を意味していた(ここでの『丁』『半』は奇数・偶数ではなく、漢字のみをさす)。 『一か罰か』の意味 でサイコロの目が一が出て成功するか、外れて失敗するかといったサイコロ賭博説や,『一か八か釈迦十か』といったカルタバクチの用語説もある。」
と,
「(もとカルタ博奕から出た語)運を天にまかせて冒険すること」(『広辞苑第5版』),
の「カルタ博奕」説と,
「『一』は『丁』、『八』は『半』を意味し(丁・半の漢字の上部に一と八が書かれている(隠れている)ため)、丁か半か一挙に勝敗を決することをいった。」(『日本語俗語辞典』http://zokugo-dict.com/02i/ichikabachika.htm),
の「丁半博奕(サイコロ賭博)」説の,二説がある。「サイコロ賭博」説には,異説に,
「一か罰(ばち)かなるべし。博徒より出たる語なると思はる。壺皿に伏せたる骰子(さいのめ)に,一が出るか,失敗(しくじ)るかの意と云ふなるべし。出たとこ勝負,出たら出たら目,などと意通ふ。」(『大言海』)
という「一か罰(ばち)か」の転訛説もある。
『日本語源広辞典』は,この二説をこう説明している。
「説1は『一か八か』です。三枚のカルタばくち,二枚で一と八でカブ(九)の時,三枚目は,釈迦の十が出るのは希である。そこでつぶやく言葉『一か八か釈迦十か』が語源とする説です。
説2は,壺に伏せたサイコロばくちで,丁半の文字の上部が隠語,丁(一の意),半(八の意)が語源です。そこで,つぶやく『一か八か』『丁か半か』が,語源となったというのです。いずれもハチにはバチ(失敗)の意が掛けてあるのだそうである。」
これだと解りにくいが,「三枚のカルタばくち」というのは,『日本語源大辞典』によると,
「めくりカルタで一から十までの札四十枚を用い,順にめくって手札との三枚の札の合計の末尾の数字が九を最高点とするもの。」
とある。これを見る限り,「バチ(失敗)」かどうかは別として,サイコロではなく,カルタに軍配を挙げたくなる。
「『一か八か』…の表現を用いた過去の用例として、『一かばちか』と『ばち』のみを平仮名表記したものが見られます。『ばち』が『八』であるとの認識があれば、わざわざ平仮名表記が選ばれることに疑問が生じますし、また『八』の語頭が濁音化していることにも疑問が残ります。(中略)以上の点を考えあわせると、もともと『丁か半か』の意味で用いられていた『一か八か』が、『八』と『罰』との語呂合わせの末、『八』の語頭が濁音化したという推論も成り立のではないでしょうか。」(https://www.alc.co.jp/jpn/article/faq/04/90.html)
と,サイコロ説を採る意見もあるようにだが,サイコロ賭博には,
一六勝負,
という言葉があって,
サイコロで一が出るか六が出るか,
を賭ける。『大言海』には,
「博奕に,壺皿に伏せたる簺目(さいのめ)に,一が出るか,六が出るか,何れかに賭けて勝負を決すると云ふごなり」
とある。「一六勝負」という言葉があるのに,「一か八か」という言葉はないのではあるまいか。因みに,「一六勝負」とは,
「一と六は賽(さい)の目の裏表であるところから」(『デジタル大辞泉』)
さいころの目に一が出るか六が出るかをかけてする勝負,
である。
このサイコロ博奕の最高なのは,たぶん,
乾坤一擲,
という言葉だろう。「一六勝負」や「一か八か」は,
サイコロを投げて,天が出るか地が出るかを賭ける,
に比べると,ずいぶんしょぼい。
「『乾』は『天』、『坤』は『地』、『乾坤』で『天地』の意味。『一擲』はさいころを投げること。天地をかけて一回さいころを投げるという意味から、自分の運命をかけて、のるかそるかの勝負に出ることをいう。韓愈の詩『鴻溝を過ぐ』の『竜疲れ虎困じて川原に割ち、億万の蒼生、性命を存す。誰か君王に馬首を回らすを勧めて、真に一擲を成して乾坤を賭せん』から。」
とある(http://kotowaza-allguide.com/ke/kenkonitteki.html)。乾坤は,『易経』に,
「乾為天,坤為地」
とあるところから来た。因みに,韓愈の詩『過鴻溝』は,
龍疲虎困割川原
億万蒼生性命存
誰勧君王回馬首
真成一擲賭乾坤
で,漢楚の戦いを詠ったもの。
「丁半博奕の「丁」と「半」という漢字の上部を取った」説を採る『笑える国語辞典』
https://www.fleapedia.com/%E4%BA%94%E5%8D%81%E9%9F%B3%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9/%E3%81%84/%E4%B8%80%E3%81%8B%E5%85%AB%E3%81%8B%E3%81%A8%E3%81%AF%E4%BD%95%E3%81%8B/
は,
「『一か八か』は、人生の大勝負に臨む際に用いられる言葉であるが、丁半博奕を語源にしているとしたら、その勝率は50%であり、通常のギャンブルの中ではむしろ安全な賭けの部類に属する。そんな一発勝負で大きな利益が得られるなら、だれもが『一か八か』の賭けをしたくなるのは無理からぬところだが、勝率50%と考えているのは実は本人ばかりであり、客観的な勝率はよほど低い勝負に臨んでいるというのが『一か八か』の現実ではないかと思われる。」
とまとめている。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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