2018年11月04日
とんま
「とんま」は,
頓馬,
と当てるが,当て字である。
のろま,
まぬけ,
の意である(『広辞苑第5版』)。
『大言海』には,
「のろまの転。のろし,とろし。のける,どけるの類」
とある。「のろま」は,
鈍間,
野呂松,
と当てるが,
野呂松人形の略(「のろまは可咲(おかしき)演劇(きょうげん)より発(おこ)る」(文化十一年・古今百馬鹿)),
転じて,
緑青を吹いた銅杓子(かなじゃくし)の形容(「銅杓子かしてのろまにして返し」(明和二年・柳多留)),
さらに,野呂松人形の意味より転じて,
愚鈍なもの,あほう,まぬけ,
さらに,遊里語として,
野暮,
という意味が転じる(『江戸語大辞典』)らしい。このことは,項を改めるとして,しかし『江戸語大辞典』は,「とんま」を,
「飛間(とびま)の撥音便か」
とする。
『由来・語源辞典』(http://yain.jp/i/%E3%81%A8%E3%82%93%E3%81%BE)は,
「鈍い、まぬけなさまをいう形容動詞『とん(頓)』の語幹に、状態を表す接尾語の『ま』がついた語。」
という。「頓」(トン)の字は,「ぬかずく」という意味だが,
「会意兼形声。屯(トン・チュン)は,草の芽がでようとして,ずっしりと地中に根を張るさま。頓は『頁(あたま)+音符屯』で,ずしんと重い頭を地に付けること」
で,
ずしんと頭を地につけてお辞儀をする(「頓首」),
ずしんと腰を下ろす(「困頓(疲れて止まり,動きが取れない)」),
どんと重みをかける(「頓足」),
腰を落ち着ける(「一頓」),
と,「まぬけ」につながる意味はない。「鈍」(呉音ドン,漢音トン)は,「にぶい」意だが,
「会意兼形声。屯(トン・チュン)は,草の生気がこもり,芽をふことするさま。鈍は『金+音符屯』で,金属のかどがずっしりと重く,ふくれてとがっていないこと」
で,
刃物の切れ味が悪い(「鈍刀」),
ずっしりしていて,動作がおそい,のろま(「遅鈍」),
等々,むしろ言うなら,「鈍(トン)間」ではないか。『日本語源広辞典』は,
「ノロマの当て字の『鈍間』を読み誤ったものの変化」
としている。これならわかる。
『日本語源大辞典』には,
ノロマの転訛説(『大言海』),
トビマ(飛間)の撥音説(『江戸語大辞典』),
以外に,
トンは,トンキョウ・トンテキ(頓的・頓敵)・トンチキなどのトンと同じか(語源辞典・形容動詞篇=吉田金彦),
がある。似たものに,「とんちんかん」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/420538148.html)で触れた,
「トント(とんと)+マ(のろま)」
というのもある。
「とんちき」は,
「擬人名『頓吉(とんきち)』の転」
とある。『日本語源大辞典』は,
頓痴気の義(大言海),
擬人名「とん吉」のキチを逆倒した語(江戸語大辞典),
トン(頓)テキ(的)の変化か(暮らしのことば語源辞典),
と載る。どうも,『江戸語大辞典』の説明が正確である。
「擬人名語『とん吉』のキチを逆倒した語。こん吉をこんちきという類」
とした上で,
①とんま,まぬけ。芝居隠語から出て明和初頃から流行語となる。
②深川の岡場所語。きざな半可通や野暮な客を罵って言う語。他の岡場所にも広がったが,ついに,①(の意味)と混交するに至る。
③とんだ,
という意味の流れをませる。どうも,「とんま」の「とん」の嘲る意味が先にあって,その「とん」を揶揄して,
とん吉,
と擬人化し,
とんちき,
となったように思える。
とんてき,
も同様に,「とんま」を前提にしている。こう考えてくると,億説だが,
鈍間(とんま)→とんま→頓間,
という流れが妥当に思える。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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