2018年11月06日

のろけ


「のろけ」は,

惚気,

と当てる。当て字である。「のろま」の項,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/462564333.html?1541361874

で触れたように,

「『のろい』は江戸時代,異性に甘いという意味もあり,『のろける』はそこから来た語」

とあり,(『擬音語・擬態語辞典』),

「女性に甘い男性を『のろ作』『のろ助』と言った」

ともある。「のろ助」「のろ作」も,もともとは「のろい」意味である。いずれも「のろい人」の擬人化だが,「のろ作」には,

手ぬるい人,遅鈍・愚鈍な人,
女に甘い男,

の意味が載る。用例に,

「又野呂作どのもいいきになって,亭主気取りのしょち振りが」(慶応元年・毬唄三人娘)

とあり,その原注に,

「女にのろいと云ふ事なるべし」

とある(『江戸語大辞典』)。どう見ても,「甘い」というより,「野暮」か「鈍感」の意味に近い。「のろ助」の用例は,

「コレへ女郎のうそなき,そらぎやう,そんな手でいくのろ助だと思ふか」(寛政十一年・猫謝羅子)

とある。「甘い」というよりは,騙されやすい,鈍感さの方が意味として合う。ということは,本来,

手ぬるい人,遅鈍・愚鈍な人,

が,女性に対しても,どこか,

鈍い,あるいは鈍感さ,

を指していたはずが,意味がいい方へとシフトしたということではないか。

『江戸語大辞典』の「惚気」の項に,

相手に対してのろくなっている,
惚れている,

という意味が載る。「相手に対してのろくなっている」は,

鈍い,

という意味で,それが,

相手(異性)に甘い,

という意味へとシフトし,さらに,

惚気る,

ところまで転じた,ということだろう。

『由来・語源辞典』(http://yain.jp/i/%E3%81%AE%E3%82%8D%E3%81%91)に,「のろけ」の語源を,

「『のろける』の『のろ』は、形容詞『鈍(のろ)い』の『のろ』と同じ。『のろい』はもともと遅いという意だったが、近世になって、にぶいという意味も生じた。さらに、異性に甘いという意味も生じ、この意味だけを表す動詞『のろける』が生じた。」

とするのも同趣旨だ。つまりは,

行動ののろさ,

という状態表現が,

遅鈍・愚鈍,

という価値表現へと転じ,その貶める価値表現から,

甘い,

という意味にシフトし,さらに「惚気話をする」といった意味に転じたことになる。しかし,

自分の恋や恋人とのことを得意になった話をする,

ということ自体,どこか鈍さ,がある。「惚気」「惚気話」に,翳のように揶揄のニュアンスがつきまとうのは,そのせいかもしれない。

「のろい」に,今日,

異性に甘い,
色情に溺れやすい,

という意味はないので,「のろけ」の形でのみ残ったことになる。

『笑える国語辞典』

https://www.fleapedia.com/%E4%BA%94%E5%8D%81%E9%9F%B3%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9/%E3%81%AE/%E6%83%9A%E6%B0%97%E3%82%8B-%E3%81%AE%E3%82%8D%E3%81%91%E3%82%8B%E3%81%A8%E3%81%AF%E4%BD%95%E3%81%8B/

は,その辺りの機微をうまく言い当てている。

「惚気る(のろける)とは、男女の仲のよさを得意になって話す行為を意味し、聞かされている人々にとっては(仲がよいといっているその相手が、とんでもない浮気な遊び人だと、本人以外みんなが知っているといった状況ででもないかぎり)おもしろくもなんともない迷惑行為をいう。そのような惚気話(のろけばなし)を長々と聞かされそうになった場合、私たちはマナーとして『ごちそうさま』と食事の後の挨拶を返すが、これは『もうおなかいっぱいで食べられません』転じて『そんなまずい料理はもういらない』という意味の断り文句として使用されるのである。
惚気るの『のろ』は、スピードが遅いという意味の『鈍(のろ)い』の『のろ』と同じ語幹であり、『惚気』は『動きがのろくなった精神』を意味する。つまり、恋愛に夢中になって周囲のしらっとした空気が読めないほど、頭の回転が鈍くなっている状態をいい、そんな鈍い精神状態から言葉を発するのが『惚気る』である。」

『日本語源広辞典』の,

「ノロ(鈍)+け(気)」

と分解したものが,よくその含意を表している。ただ,「のろける」の語源には,

「トロケル(蕩)と同義」(上方語源辞典=前田勇),

もある。しかし,これでは「のろけ」のもつ陰翳がなさすぎる。

参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:惚気 のろけ
posted by Toshi at 04:52| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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