2018年11月16日

すべて


「すべて」は,

全て,
総て,
凡て,
渾て,
都て,
統て,

等々と当てる。

ことごとく,
皆,
全部,

という意味だが,

「ス(総)ブの連用形に助詞テの付いたもの」

とある(『広辞苑第5版』)。『岩波古語辞典』には,

「スベ(統)テの意」

とあり,『日本語源広辞典』にも,

「統ベルの連用形+て」

とある。『語源由来辞典』(http://gogen-allguide.com/su/subete.html)は,

「多くの物をひとつにまとめる意味の動詞『統べる(すべる)・統ぶ(すぶ)』の連用形に、 接続助詞の『て』が付いた語。 古くは、『一般的にいって』『総じて』の意味や、下に 打ち消しの語を伴って『全然』『まったく』も意味した。 」

とある。それにしても,同じ意味を,当て分けている漢字にはどんな意味の差があるのか(『字源』)。

「渾」は,ひとまとめに打ち混じて分たぬ義。杜詩(「春望」)「渾欲不勝簪(渾簪勝えざらんと欲す)」
「凡」は,皆也。およそとも訓む。総体を計へていふ詞。総に近し。
「総」は,総体をいふ。聚束也と註す。もと絲を組合すぎより出づ,多くの物を一つにすべ合わせる義。別の字に対す。列子の「居人民之上,総一國之事」の総を転用して助辞とす。
「都」は,寄せ合わせる義,総也,聚也と註す。残らずあつむるをいふ。
「統」の字は,これとは同列に比較されていない。「統」(トウ)の字は,

「会意兼形声。充(ジュウ)は,子供が充実してそだつこと,全体に行き渡る意を含む。統の字は『糸+充』で,糸すじが端から全体へとゆきわたること」

の意で,全体につながる絲のすじ,治める,という意である。ある意味で,「総」の字と比較すると意味の違いがよかる(総もすべる意を持つ)。

「総(總)」(漢音ソウ,呉音ス)の字は,

「会意兼形声。窗(まど)の下部は,もと空気抜きのまどを描いた象形文字で,窓の原字。へやの空気が一本にまとまり,縦に抜け出ること。総の右側の字(悤 ソウ)は,それに心を加えたもので,多くの用事を一手にまとめて忙しいこと。總はそれを音符とし,糸を加えた字で,多くの糸をひとつにまとめて締めたふさ。一手にまとめる意となる。」

とあり(『漢字源』),「たばねる」意である。「すべ」るとしてまとめれば同じだか,「束ねる」のと,全体の筋を通す意とは,ずいぶん違う。統治を束ねる意とするすか,意図を貫徹するか,その違いは大きい。

「渾」(漢音コン,呉音ゴン)は,

「会意兼形声。軍は『勹(とりかこむ)+車』の会意文字で,戦車を円陣を生すように並べてまるくまとめること。郡や群と同系で,全体がまとまっている意を含む。渾は『水+音符軍』で,全体がまるくまとまり,溶けあっていること。混ときわめて近い」

とあり(『漢字源』),「にごる」「分化せずにひとつにとけあっている」という意である。

「都」(漢音ト,呉音ツ)の字は,

「会意兼形声。者(シャ)はこんろの上で柴をもやすさまで,火力を集中すること。煮(シャ)の原字。都は『邑(まち)+音符者』で,人々が集中する大きなまち」

であり(『漢字源』),あつまる,意である。

「凡」(漢音ボン,呉音ハン)の字は,

「象形。広い面積をもって全体をおおう板。または布を描いたもの」

で,おしなべる,意である。

それぞれの微妙な意味の差は「すべて」と括られる。日本語の曖昧さ,いい加減さをよく顕している。

では,「すべる」(すぶ)は,何処から来たか。

『日本語源広辞典』は,

「ス(総・統)+ブ(語尾)の下一段化」です。スバル,スボマルなどと同根です。」

とする。これだとよく分からないが,『大言海』は,「すぶ(統・総)」の項で,

すぶ(窄)の転,

とある。つまり,「すぼ(窄)む」を見ると,

「末含(すえほほ)むの意かといふ」

とある。「窄む」とは,すぼめて閉じ込める意である。そして,この「窄める」は,

壺の語を活用させた語,

とある(『岩波古語辞典』)。これは,「壺」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/449713166.html)の項で触れたように,「壺」自体が,

窪み,

に準えて言っており,,

坪,

とも当てた。どうやら,「すべる」は,我が国では,くぼみに押し込める含意がある。我が国の為政者は,なべてこういう「統べ」方をしてきたようだ。

因みに,「スバル」も,

「統ばる」(『日本語源広辞典』),

であり,「統べる」と関わる。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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