「ひょうろく」は,
表六,
兵六,
と当てる。
愚鈍な人を罵って言う語,
表六玉,
兵六玉,
とも言う。今日では,ほぼ死語である。『大言海』には,「表六」の項に,
蔵六に対す,
とある。「蔵六」の項には,
亀の異名,
とあり,
「亀が,頭,尾,四脚を,甲の内に縮め慎む意に云ふ」
とある。そして,こう引用する。
「祖庭事苑『雑阿含經云,有亀,被野干(キツネ)所得,亀六蔵不出,野干怒而捨去,佛告諸比丘曰,汝等,當如亀六蔵,自蔵六根,魔亦不得便』」
まさに,頭,尾,四脚の六つを甲の内に隠す意だが,これと「表六」との関連の絵解きは,
「言い伝えとして『賢い亀は六を隠す、愚かな亀は六を表す』という言葉があるようです。…利口な亀は敵が来れば六つの部品を素早く甲羅の中に隠します。…馬鹿な亀はいつまでも六つの部品を外に表したままです。捕食者にガブリとやられるかもしれません。六を表したままだから表六。これに悪玉・善玉などと呼ぶ場合の玉という接尾語がくっついて『表六玉』となったそうです。」(http://blog.q-q.jp/201103/article_20.html)
が明快である。
(水棲ガメ(クサガメ)の甲羅 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%A1より)
ただ異説もあり,
説1 のろまな鈍くさい亀(ドンガメ)が、危機が迫っているにも関わらず手足+頭+尻尾の6つの部分を表に出しっぱなしの状態を表六(ひょうろく)としたことから、鈍くさい、うすのろ、まぬけな人間を指す,
説2 花火の一番小さい玉、瓢六玉から転じる。(瓢六~瓢一があり、一が一番大きい),
という(http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C9%BD%CF%BB%B6%CC)。
ただ調べた限りで,花火の玉についての記述は確認できなかった。
「花火玉の玉という説もありますが、「まぬけ」の意味の「表六」に花火の「玉」をつけてもなんとなくしっくり来ません。」
と(https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q147033884),「表六玉」の語感に否定的な記事があるのみである。
「玉」は,いろんな意味があるが,
魂と同根,
とされ,
「人間を見守りたすける働きを持つ精霊の憑代となる,丸い石などの物体が原義」
らしい(『岩波古語辞典』)が,メタファとして人に言い,
上玉,
というような女性を称し,果ては,
いい玉,
たいした玉,
というように,
人品・器量の見地から人をあざけって言う語(『広辞苑第5版』),
あざけりの気持ちで,人をその程度の人物であるときめつける語,やつ(『デジタル大辞泉』),
という遣い方をする。この「表六玉」の場合,この「玉」である。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95