2018年12月01日

花火


「花火」は,

煙(烟)火,

とも当てる(『広辞苑第5版』)。

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(歌川広重『名所江戸百景』に描かれた両国花火。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8A%B1%E7%81%ABより)

今日は,

「黒色火薬に発色剤をまぜて筒につめ,または玉としたもの。点火して破裂・燃焼させ,光・色・爆音などを楽しむ」

という(『広辞苑第5版』),いわゆる「花火」であるが,はぜ「花」「火」なのか。『字源』の「花火」に(ということは「花火」は中国語らしい),

「經國雄略『梨花之製,捲紙為筒,如元宵之戯玩花火之類』」

とあり,

烟火,

と同じとある。「煙(烟)火」の項を見ると,

飯をかしぐ煙,

と同時に,

のろし,

とある。用例として引かれた,

「漢書『初北邉宣帝以来,數世不見煙火之警,人民熾盛,牛馬布野』」

を見ると,「烽火」の意である。日本でも,『大言海』の「花火」の項で,

「北條記,佐竹對陣『天正十三年,云々,敵陣に花火を焼立てければ,味方の若侍共,花火をくくりて,是も同じく焼立てける』」

とある。やはり「烽火」である。初めは,「のろし」として用いられていたことがわかる。「焼く」とは,

狼烟は,陣中にて焼く,

とあるので,烽火を上げることを,そう呼んだものらしい。

この「のろし」は,

狼煙,
烽火,

と当てる。『大言海』は,

「ノロは,野(のら)の転,シは気なり。風雨(あらし),虹(にじ)のシと同義。宋の陸佃の埤雅に『古之烽火,用狼糞,取其煙直而聚,雖風吹之不斜』と」

とあり,『大言海』は,さらに付言して,

「北條流の軍學にては,地を掘ること一丈ばかり,底に薪をたきて,二間程の生木數本を,焼火の上に立つれば,煙,空に上がると云ふ(甲子夜話)。或は,これに狼の糞を投ずれば,烟高く天に昇り,風に靡かずと云ふ」

とある。狼云々はこの謂いである。さらに,この「のろし」の意味に,

「江戸時代に,色々作りものを打ちあぐる火花,ちあげはなび」

と載る。打ち上げ花火が「のろし」の発展形といことである。「のろし」の語源は,『大言海』のノラシ説以外に,

野狼矢の義か(和訓栞),
ノボルシルシ(外記)の義か(名言通),
ノは火,ロは含み発する,シは通行の意(柴門和語類集),
ノシ(伸)の義,ロは助語(言元梯),

等々諸説ある(『日本語源大辞典』)が,『日本語源広辞典』の,

「『ノロシ(烽火・狼煙)』は,古く『飛ぶ火』といいました。『「ノル(宣・祝)+火」の音韻変化』が語源かと思われます。戦を宣言する合図の焚火で,煙を上げることをいいます」

が,「のろし」の意味からは,よく納得できる。

今日の「花火」は,日本では,

「室町時代の公家万里小路時房の日記『建内記(建聖院内府記)』の1447年5月5日(文安4年3月21日)条に、浄華院における法事の後に境内にて『唐人』が花火と考えられる『風流事』を行ったという記事が見えている。そこでは、竹で枠を作り、火で『薄・桔梗・仙翁花・水車』などの形を表現したもの、火が縄を伝って行き来するといったものや、『鼠』と称し火を付けると『走廻』るもの、手に持って火を付けると空中を『流星』のように飛ぶもの、などが披露されたという。時房は『希代之火術也』と賞賛し、褒美を与えている。」

とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8A%B1%E7%81%AB)のが最初のようにである。そして,

「1582年4月14日(天正10年3月22日)にポルトガル人のイエズス会宣教師が現在の大分県臼杵市にあった聖堂で花火を使用したという記録(『イエズス会日本年報』『フロイス日本史』)は、大友宗麟が花火を活用して聖週間の祭儀をキリシタンを増やすための盛大な公開イベントとしたものである。聖土曜日の夜から翌明け方までの復活徹夜祭では、三つの城楼から花火細工が出て来る仕掛けが、三千もの提燈(教会堂や日本の物語を象った夜高行燈)の行列に豪華さを加えた。さらに数々の花火が『空中で実にさまざまな形となった』ので人々は皆立ち止まって花火見物をした。」

とある(仝上)。さらに,

「『駿府政事録』『宮中秘策』『武徳編年集成』等の書物によれば現代の花火に繋がる花火を一番初めに見たのは徳川家康とされる。1613年8月、英国人ジョン・セーリスが国王ジェームズ1世の国書をたずさえ正式な使者として駿府城を訪れた際、花火を見せたとされる。」

江戸時代以降,花火が盛んになるが,『和漢三才図会』には,

鼠花火、狼煙花火,

等々が紹介されている,という(仝上)江戸時代以降の花火については,

http://www17.plala.or.jp/hanabi-sanpo/knowledge03.htm
http://www17.plala.or.jp/hanabi-sanpo/knowledge03.htm

等々にも詳しい。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 05:24| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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