2018年12月06日

けがれ


「けがれ」は,

穢れ,
汚れ,

と当てる。漢字で「汚」と「穢」は微妙に違う。

「汚」は,「汗」に同じ。「汗」は,たまり水なり。濁水不流と註す。轉じて人の行の濁りて,清からぬをいふ,
「穢」は,畑の草だらけにきたなきをいふ。蕪穢,荒穢と連用す。また轉じて,穢徳,穢行などと用ふ。汚より重し,

とある(『字源』)。確かに,「汚(けが)れ」と汚(よご)れだが,「穢れ」は,洗っても落ちない感覚がある。

「『けがる』と『よごる』の違いは、『よごる』が一時的・表面的な汚れであり洗浄等の行為で除去できるのに対し、『けがる』は永続的・内面的汚れであり『清メ』などの儀式執行により除去されるとされる汚れである。」

とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A9%A2%E3%82%8C)のも,その感覚である。

で,「けがれ」は,「よごれ」ではあるが,少し広げて,「神前に出たり勤めにつくのを憚られる出来事」となり,より広げて,名誉を傷つけられる,汚点の意ともなる。

『大言海』は,「けがる」の項で,

「清離(きよか)るの約か,清(きよ)ら,けうら」

とする。『岩波古語辞典』は,

「ケ(褻)カレ(離)の複合か。死・出産・月経など異常な状態,触れるべきでない不浄とされる状態になる意」

とする。「褻」は,「晴」と「褻」という使い方で,「日常」「平生」の意で使うが,中国語にはない。「褻」(漢音セツ,呉音セチ)の字は,

「会意兼形声。『衣+音符熟(身近い,ねばりつく)の略体』」

とあり,「はだぎ」「ふだん着」の意味で,そこから「けがれる」意をも持つ。

「けがれ」は,「い(忌)む」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/463067059.html?1543954637)対象と言うことになる。例えば,「火」は,

「神宮等では、神事の際、忌火(いみび)と呼ばれる火を起こす。これは火がそもそも持つ性質、すなわち「他を焼き無くしてしまう」という性質が、一般的なケガレの概念、つまり「不浄」「不潔」同様、神や人間の結界、生活圏を脅かす「ケガレ」であるため、これを用いる際にそう呼ばれる。また火がケガレを伝染媒介すると考えられていた為、かまどを別にするなどの措置がとられた。」(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BF%8C%E3%81%BF

とある。「けがれ」とは,

「忌まわしく思われる不浄な状態。死・疫病・月経などによって生じ、共同体に異常をもたらすと信じられ避けられる」(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A9%A2%E3%82%8C

ものとなる。

「清離(きよか)るの約」と「ケ(褻)カレ(離)の複合」は,似ているが,微妙に違う気がする。

「け(褻)」について,『岩波古語辞典』は,「晴れの対」とした上で,

「ケ(日)と同根」

とし,

「日常的なこと。ふだん」

の意とする。「け(日)」は,「k ë」で,

「カ(日)の転」

だが,

「『ひ(日)』が一日をいうのに対して,二日以上にわたる期間をまとめていう語」

である,という。「複数だけを表す単語は,日本語には他例がない」とある。しかし,『大言海』は,「け(褻)」について,別の説を立てる。

「け(來經)の義にて,日常の意ならむ。褻の衣は,常の衣なり」

と,漢字「褻」の意から解釈する。ま,日常というのに代わりはない。

「清」から離れる,
のと,
「日常」から離れる,

のでは,「清さ」から離れているのと,日常から外れているのとでは,「けがれ」の穢れ度が,結構違う。「晴れ」から離れていると言うのと,「ケ(日常)」から離れていると言うのとの違いと言うと分かりやすい。「けがれ」を,

日常に悪影響を与えるもの(こと),

清らかさ(神聖さ)から離れること,

の二面があり,いずれも,「けがれ」なのかもしれないが,

日常から外れた,つまり異常か,
清らかさ(清浄)から外れた不浄か,

は,微妙に意味が違うが,「けがれ」の意味の幅を押さえているとも言える。

『日本語源広辞典』は,「けがす」で,三説挙げる。

説1,「ケガ(怪我)と同源,
説2,「ケ(あなどる)+カル(離る)」。見下げて遠ざける意,
説3,「ケ(食)+カル(離る)」。食物が汚れ,口にできなくなる,

ただ,「怪我」は「仮我」という仏教語由来らしいので,後世と見られる。他の説は,「けがれ」が,意味の変化をとげて以降の解釈に見える。

『日本語源大辞典』は,「清」離説,「褻」離説以外に,

気枯の義(白石先生紳書・和訓栞),
ケカル(気枯)の義。穢は雑草の意で,雑草が多く生ずると,諸草すなわち毛が荒廃するところから(類聚名義抄),
ケ(気)に,不快感を表すだろう君ガをつけたものか(国語の語根とその分類=大島正健),
ケ(気)の物に触れる義から(国語溯原=大矢徹),
ケカカル(気懸)の義(言元梯),
ケガ-アレ(生)の約。ケはキエ(消)の約で気,ガは身に染む義(国語本義),
悪い気ガアルの約(和句解),

等々諸説あるが,とても,「けがれ」の持つ奥行が視野に入っているとは思えない。結局,

キヨカル(清離)説(大言海・名言通),

ケ(褻)カル(離)説(岩波古語辞典)。

に軍配を上げるほかない。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)


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posted by Toshi at 05:17| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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