2018年12月10日

いどむ


「いどむ」は,

挑む,

と当てる。「挑」(チョウ,トウ)の字は,

「会意兼形声。兆は亀甲・獣骨を焼いて占うとき,ぱんと割目が生じたさま(ひび割れの形)を描いた象形文字。割れて離れる意を含む。挑は『手+音符兆』で,くっついているものを離すこと。ぴんとはねて離す意に用いる。」

とあり(『漢字源』),「いどむ」「こちらから仕掛ける」といった意で,「挑発」「兆戦」といった使い方をするが,意味からは,「かかげる」意で,「挑灯」という意が強い。『字源』は,

「挑」は,はねあげる,また,かきたてる義。挑燈と用ふ,
「掲」は,髙く上げる意,掲竿為旗(文選),

と「掲」と比較している。「挑撥」というように,かかげあげる意から,しかける,という意味があるので,「挑」の字には,

静かにしているものを引っかけて起こす,

という含意があるのだろう。その意味から,「掲げる」意も,「いどむ」意も派生するように思える。

『大言海』は,「いどむ」を,

「射響動(いどよ)むの約にてもあるか。戦ひより起りて,争ふ意に移りたるならむ」

とする。「響動」は,

どよめく,

に当てられる(『広辞苑第5版』)。しかし,射て響き動く,というあからさまなイメージは「いどむ」にはなく,『岩波古語辞典』を見ると,

相手の気持ちを戦闘へとそそりたてる,挑発する,
(戦意を燃やして)張り合う,
相手の恋心をそそり立て,誘いかける,

と意味が載り,「挑」の字の「けしかける」と重なる。その意味では,

チャレンジ,
果敢に取り組む,
(今日の意味する)挑戦する,

とはいささか含意が異なり,「挑戦」という表立った戦い宣言よりは,策謀,陰謀めいて陰にこもって戦うように相手側に仕掛けていく,

仕組む,

という含意に思える。せいぜい,

張り合う,

という意味までの射程に思える

『日本語源広辞典』は,「いどむ」の語源を,二説挙げ,ひとつは,『大言海』の,

「イ(射)+ドム(響動)」

とし,

「弓を射るときのように,集中して仕事にかかる」意とする。しかし,「いどむ」の持つ意味とは乖離が大きい。いまひとつは,

「イド(息止)+ム」

で,

「息を止め気合を込めて仕事を仕掛ける意味」

とする。しかし,いずれも,「いどむ」の意味の,今日のチャレンジの含意で考えているように思えてならない。どうしても,音から当てはめて語源を考えているのではないか,と思えてならない。『日本語源大辞典』も,

イヒトムの義,又,イは射か(和訓栞),
イドヨム(射動)の約(名言通),
弓射ることか(和句解),
イヒタム(言廻)の約か(日本古語大辞典=松岡静雄),
イは発声,ドムはトム(尋)(俚言集覧),
イキダムの約,イキは気,ダムは濁る意(両京俚言考),
イトム(息敏)の義(日本語源=賀茂百樹),
イタス(致)の転声(和語私臆鈔),
アヒツヨムの約(万葉考),
イは怖くないというので歯を出してイということをする意か。ドムは何か音を発すること(国語史論=柳田國男)

等々,諸説挙げるが,「いどむ」に「挑」の字を当てたには,当てた理由がある。古代人は,それなりの見識で,和語にピタリの漢字を,必死で探し当てた。その意図に鑑みれば,「挑」の字のもつ,

静かにしているものを引っかけて起こす,

という含意を示す語源説でなくては説得力はない。どうも語源不詳とみるしかないようである。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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