「日」とあてる「ひ」は,「火」と当てる「ひ」とは別語らしい。「ひ(火)」は古形が「ほ」ということもあるが,上代「ひ(日)」は,
Fi,
「ひ(火)」は,
Fï,
の音であった(『岩波古語辞典』)。『語源由来辞典』(http://gogen-allguide.com/hi/hi_day.html)が,それを,
「『太陽』は燃え盛っているもので,『名義抄』には『日,陽,火,ヒ』とあるので,語源は『火』もしくは『火』と同源と考えることができる。しかし,上代特殊仮名遣いで『日』の『ひ』は『甲類』,『火』の『ひ』は『乙類』である」
と説明している。
『岩波古語辞典』は,「ひ(日)」について,
「太陽を言うのが原義。太陽の出ている明るい時間,日中。太陽が出て没するまでの経過を時間の単位としてヒトヒ(一日)という。ヒ(日)の複数はヒビというが,二日以上の長い期間を一まとめに把握した場合には,フツカ(二日),ミカ(三日)のようにカという」
とする。
「元来は、日没から日没まで、あるいは日の出から日の出までをひとつの『日』としている。人はもともと1日のスケジュールは、太陽の動きをもとに決めているのである。『日没が1日のはじまり』と考える習慣がある。。ユダヤ暦では、日没をもって1日のはじまり、日付の変り目とする。キリスト教の教会暦も、このユダヤ暦を継承している。ユダヤ暦や教会暦では、1日は闇で始まり、やがて光に満ちるのである。」
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5)ので,ほぼ人類共通らしい。『大言海』によると,
「明け六つ(午前六時)を一日の初とし,次の明け六つを終とせしを,夜九つ(午前十二時)よりと改むる由,元文五年の暦の端書に見えたり」
とあるので,江戸時代の元文四年(1740)に一日を今日の,零時からと替えたと知れる。時計の影響かもしれない。
(殷,甲骨文字 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%97%A5より)
(西周,金文 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%97%A5より)
「日」(呉音ニチ,漢音ヅツ)の字は,
「太陽の姿を描いた」
象形文字。
さて,「ひ(日)」の語源である。
『日本語源広辞典』は,
「ピカピカのピ。古代音ピィが,フィ,ヒと変化した語」
とし,「ヒナタは,『日+太陽+ナ(の)+タ(方角)』で,太陽の当る側です。転じて日出から日没までの間」と付言する。
和語は,擬音語・擬態語が多いのは,文字を持たず,文脈に依存し,その場,その時に居合わせた人との会話だからだと思っている。その意味で,言語の抽象度が低い。「太陽」という概念よりは,その光っている状態を表現するという意味で,
ぴかぴか,
あるいは,
ひかひか,
という擬態語から来たというのは説得力がある。「ひかひか」は,「ぴかぴか」の古形とするが,ただ,
「室町末期から用例が見える」
と(『擬音語・擬態語辞典』),時代が遡れないのが難点。
『日本語源大辞典』は,
ケフ(今日)・キノフ(昨日)のフと同源語(古代日本語文法の成立の研究=山口佳紀),
ヒ(靈)の義(東雅・言葉の根しらべの=鈴木潔子),
ヒカリ(光)のヒから(国語の語根とその分類=大島正健),
ヒ(火)の義(和句解・言元梯・名言通・日本語原学=林甕臣),
等々挙げるが,「ひ(火)」説は上代特殊仮名遣いから,「ひ(日)」とは別語なので,消えるし,少し気になる,
ひ(靈),
は,
「原始的な霊格の一。活力のもととなる不思議な力。太陽神の信仰によって成立した観念」
とある(『岩波古語辞典』)ので,「ひ(日)」と関わるが,たぶん,「ひ(日)」の成立によって,「ひ(靈)」に当てたと考える方が順序ではあるまいか。
なお,「ひ」は,
陽,
とも当てるが,「陽」(ヨウ)は,
「会意兼形声。易(ヨウ)は,太陽が輝いて高く上がるさまを示す会意文字。陽は『阜(阝=おか)+音符易』で,明るいはっきりした,の意を含む。」
とあるが,陰陽の「陽」で,易學上語。
「動・生・開・上・前・南・天・男・君・日・晝などすべて積極性の意を有するもの」
で(『字源』),「陰」の対としての,抽象度の高い概念語。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95