2018年12月18日

ついたち


「ついたち」は,

一日,
朔日,
朔,

等々と当てる。「朔」(サク)の字は,

「会意文字。屰は,逆の原字で,さかさまにもりを打ち込んださま。また大の字(人間が立った姿)を逆さにしたものともいう。朔はそれと月を合わせた字で,月が一周して元の位置に戻ったことを示す」

とあり(『漢字源』),「晦(みそか,つごもり)」の対で,

「ひと月が終って,暦の最初に戻った日」

で,陰暦の月の第一日のこと。だから,『広辞苑第5版』は,

「ツキタチ(月立)の音便。こもっていた月が出始める意」

とし,

「西方の空に,日の入った後,月が仄かに見え始める日を初めとして,それから10日ばかりの間の称」

とある。つまり「月の上旬」を意味した。そこから,

月の第一日,

を意味したが,古くは,

ついたちの日,

という言い方をしたらしい。『大言海』は,

「月立」とあてる「ついたち」
と,
「朔」とあてる「ついたち」

を,別項としている見識を示す。

「ついたち(月立)」は,

「(ツキタチの音便)西の方の空に,陽の入りぬるあとに,月のほのかに見え初むる日を初として,それより十日ばかりかけたる程の称」

とし,「ついたち(朔)」は,

「正しくは,ツイタチの日。陰暦に,月の第一の日。

とある。この意味の変化が,正確なのだろう。

「つきたち(月立)の転化した語で、月の初め、月の上旬をいったが、月の第一の日をいい、とくに正月の第1日(元日)をいうこともある。江戸時代には、『ついたちの雪』(八朔(はっさく)、八朔の雪)といって、陰暦8月1日に、江戸の新吉原の遊女が一斉に白無垢(しろむく)の小袖(こそで)を着用する風習があった。また、陰暦6月1日には、加賀の前田家から将軍家に雪献上があったが、これは真夏のこととて、雪室(ゆきむろ)での貯蔵以上に道中がたいへんであった。」(『日本大百科全書(ニッポニカ)』)

と,「ついたち」は特別の日であった。

「一日」と当てると,

いちじつ,
いちにち,
いっぴ,

とも訓ませる。「いちじつ」「いちにち」はある日(の一日),終日の意のように,その他の意味もあるが,

「月のはじめの日」

の意味で通じる。こんな多種の,ある種いい加減な訓み方は,文脈に依存し,「ことば」で通じ合うということからきているのではないか。最初「文字」からの意味ではなく,通用「言葉」に「文字」を当てた,持たなかった故なのではないか,と思える。

「ついたち」の語源は,

「月+立つ」

が通説だが,類似の説がある。『日本語源大辞典』は,

ツキタツ(月起)の転(日本釈名・和語私臆鈔),
ツキヒタツ(月日立)の略か(カタ言),
ツキタチイズルの略(関秘録),
ツタツの義(安斎雑考),

と挙げているが,「月+立つ」が大勢である。な,『語源由来辞典』(http://gogen-allguide.com/tu/tsuitachi.html)は,

「ついたちは、『ふつか(二日)』『みっか(三日)』などとは異なり、『か(日)』を用いない特殊 な語である。平安や奈良時代には、『一日』は『ひとひ』と呼ばれ、『ひとひ、ふつか、みか …』と数えられた。しかし、『一日』は『ある日』『二四時間』などの意味も含み、混同しやすいことから、『ついたち』に呼び方を変えたようである。
 ついたちの語源は、『つきたち(月立ち)』の音韻変化と考えられる。『月立ち』の『立ち』は、『出現する』『現れる』といった意味で、陰暦では月の満ち欠けによって月日を数え、新月が現れる日がその月の最初の日にあたることに由来する。
 ついたちの語源は『月立ち』の意味でほぼ間違いないが、動詞や形容詞では『キ』や『ギ』がイ音便化された例があるのに対して、名詞『つき(月)』の『キ』がイ音便化された例はなく、『つきたち』という語の実例疑問がも認められていないため残る。」

とする。このネット上の『語源辞典』は,いささか,上から目線のくせに,時に外すのが可笑しいが,『大言海』は,「ついたち(月立)」の項で,

「故四月(うづきの)上旬(つきたちの)頃」(古事記・仲哀),
「月立(つきたち)二日」(天智紀),

の用例を挙げている。また,

「『一日』は『ある日』『二四時間』などの意味も含み、混同しやすいことから、『ついたち』に呼び方を変えた」

というのも説明が変だ。むしろ陰暦からきた「ついたち」の概念が浸透したからではないか。「ひとひ」と「ついたち」では,そもそも言葉の由来と発想を異にしている。その奥行が認知されたとみるべきではないか。言葉は,文字が入ることで,それの思想(観念)が入った,ということではないのか。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 05:21| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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