びびる
「びびる」は,
ビビる,
と表記したりするが,
はにかむ,
気後れする,
尻込みする,
意である(『広辞苑第5版』)。「はにかむ」意ではあまり使わないが,気後れの意で使う。これは,
平安時代まで遡る,
という説がある。平安時代まで溯るかどうかは分からないが,『岩波古語辞典』に載り,
気おくれがする,
意の他に,
はにかむ,
恥じらう,
物惜しみする,けちけちする,
意が載る。「物惜しみする」意は,「志不可起」に,
「人の嗇(しわ)くて物惜しむをびびると云ふ」
とある。『江戸語大辞典』には,
はにかむ,はずかしがる,しりごみする,
の意が先ず載り,その用例に,
「引かれるとそのくせびびる浅黄うら」(明和八年川柳評万句合),
が載る。「浅黄(浅葱)色」とは,緑がかった薄い藍(あい)色)の木綿布を裏地に用いた着物の意で,
「実用性に富むことから、江戸時代に江戸庶民の間で一時流行した浅葱木綿の着物であったが、流行が廃れても田舎侍や生活が困窮していた下級武士などが羽織の裏地に浅葱木綿を使っていた。江戸っ子のいきとは反対で、表地だけ豪華に見えるが実際は粗末な服という意味の隠語である。」
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B5%85%E8%91%B1%E8%A3%8F)。「無粋野暮の骨頂として遊里のふられ者の標本となった」(仝上)者を揶揄している。「はにかむ」というより「尻込みする」意だろう。
その他に,
すねて素直でない,ぐずぐず言う,
意があり,
「びびる,小児の強(すね)てすなほならぬをビビルといふ」(俚言集覧),
の用例が載る。『江戸語大辞典』には,
びびりこ,
という言葉も載り,
はにかむ子,すねてぐずぐず言う子,
の意で,
びびりっこ,
とも言ったとある。
「びびる」は,どうやら,江戸時代の言葉と見られる。
「『びびる』の語源として広まっている『平安時代からあることばで、戦で鎧が触れ合う音に由来する』という説は誤りであると考えられる。『びびる』の用例が確認できるのは江戸時代から。この説は平成に入ってから突然現れたもので、どうやら1988年に出た本の誤読から生まれたようだ。『びびる』がオノマトペに由来しているという点はおそらく正しい。」
とある(http://fngsw.hatenablog.com/entry/2018/06/13/192334)し,調べる限り,用例は全て江戸期の例のようだ。その誤解のいきさつは,上記サイト(http://fngsw.hatenablog.com/entry/2018/06/13/192334)に譲るとして,では語源は,というと,シンプルに,
びくびくするの簡約語,
である(『日本語源広辞典』)。つまり,
びくびくする→びびる,
で,これは,
びくびくする→びくつく
ともつながる。要は,和語らしく,擬態語由来ということだ。ちなみに,
びくっ,
は,
一回の動作,
びくびく,
は,
何回か連続した動作,
ということになる(『擬音語・擬態語辞典』)。びくつくは,
「『びく』に『ごたつく』『べたつく』などの『つく』が付いたもの,らしい。
『日本語俗語辞典』(http://zokugo-dict.com/27hi/bibiru.htm)には,
「江戸時代には舞台前に緊張や気後れから萎縮することを意味する楽屋言葉として芸人の間で使われ、特に関西エリアでは一般にも普及。1970年代後半のツッパリブームになると、ケンカ前に相手におじけづくことや悪事をする前におじけづくことを指し、不良少年の間で重用される。1980年代には世代・エリアを超え、広く普及すると同時に、おじけづいている人や萎縮しやすい人を意味する名詞形のびびりも使われるようになる。」
と,70年代に急に復活した謂れが載る。『大言海』には載らないが,『岩波古語辞典』『広辞苑第5版』には載るのである。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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