2018年12月27日

ふね


「ふね」は,

船,
舟,
槽,

と当てる。「舟」(漢音シュウ,呉音シュ)の字は,

「象形。中国の小舟は長方形で,その姿を描いたものが舟。周(シュウ)・週と同系のことばで,周りをとりまいたふね。服・兪・朕・前・朝等の字の月印は,舟の変形したもの」

とある(『漢字源』)。さらに,

「船は,沿と同系で,流れに沿って下るふね。舶は,泊と同系で,沖にもやいして岸には着かない大ぶね。艇は挺(まっすぐ)と同系で,直進するはやぶね。艦(カン)は,いかめしいいくさぶね。」

とある。「船」と「舟」の違いは,あまりなく,

「漢代には,東方では舟,西方では船といった」

とある(『漢字源』)。「航」(コウ)も「船の別名」とある(『字源』)。「舫」(ホウ)は,「もやいぶね」「兩船を並べる」の意。今日,「舟」と「船」の違いは,

「動力を用いる大型のものを『船』,手で漕ぐ小型のものを『舟』」

と表記する(http://gogen-allguide.com/hu/fune.html)。

「『舟』や『艇』は、いかだ以外の水上を移動する手漕ぎの乗り物を指し、『船』は『舟』よりも大きく手漕ぎ以外の移動力を備えたものを指す。『船舶』は船全般を指す。『艦』は軍艦の意味である。(中略)つまり、民生用のフネは「船」、軍事用のフネは『艦』、小型のフネは『艇』または『舟』の字」

を当てる(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%88%B9)とか。

「ふね」に当てる「槽」(漢音ソウ,呉音ゾウ)の字は,

「会意兼形声。『木+音符曹(いくつも並べる,ぞんざいに扱う)』で,いくつもあって,大切でない今日の容器」

であり,「かいば桶」の意である。これが「ふね」に当てられた理由は分からないが,「舟」に,

「水などを入れる桶」
「酒や醤油を絞る桶」

の意味で使うのは我が国だけで,「湯舟」「酒舟」等々という言葉もある。「槽」には,

酒を貯えておく容器,

の意味があり,「酒槽(シュソウ)」という言葉もある。このつながりで,「ふね」に当てたのではあるまいか。「槽」を当てるのは,

箱形の容器,

だけで,

酒槽(さかぶね),
紙漉槽(かみすきぶね),
馬糧桶(うまぶね)

等々と訓ませる。それとの関係だろうか,「棺」を「ふね」と訓ませ,

棺入り,

を「ふないり」などと訓ませる。我が国だけの言い回しである。

さて,和語「ふね」の語源である。『岩波古語辞典』『広辞苑第5版』は,

「古形フナの転」

とする。他の例に洩れず,複合語に残る。

船乗り(ふなのり),
船べり(ふなべり),
船宿(ふなやど),
船人(ふなびと),
船足(ふなあし),
船遊び(ふなあそび),
船泊(ふなどまり),
船筏(ふないかだ),
船歌(ふなうた),
船路(ふなじ),
船出(ふなで),
船底(ふなぞこ),
船橋(ふなはし),
船便(ふなびん),
船盛り(ふなもり),

等々。とすれば,「ふな」から語源を考えるのが順当のはずである。しかし殆どは,それを無視しているようにに見える。

『日本語源広辞典』は,二説挙げる。

説1は,「フネ(容器)」説。曲げ物のフネ,岩船寺のフネなど,
説2は,「ヘ(容器)の転じたフに,ネ(接尾語,動くもの)を加えた,

と,「容器」由来説を採る。同趣は,『語源由来辞典』(http://gogen-allguide.com/hu/fune.html)で,

「水槽や大きな容器を表す古語『ふね(槽)』からとする説が有力とされている。しかし、浴槽の『湯船』や魚介類などを盛る容器をいう『舟』は船の形からきたものであるため、 古語の『ふね(槽)』も同様のたとえから派生した語とも考えられる。『ふね』の『ね』は 接尾語で、『ふ』は水に浮かぶことから『浮』とする説や、帆を張ることから『帆』とする説がある。」

しかし,僕は逆なのではないか,と思えてならない。容器を船に準えるよりは,壺や甕といった容器一般ではなく,大きな槽タイプは,「フネ(舟)」に準えた,と見るのが妥当ではないか,と思うのだが,「容器」説は少なくない。

フネは容器の称(海上文化=柳田國男・日本の言葉=新村出),
物を載する器の意(和訓栞),
フは容器の意のヘの転。ネは接尾語(日本古語大辞典=松岡静雄),

等々。しかし,「へ」については,「かめ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/462616670.html)で触れたように,

「カ(瓮)メ(瓶)の複合語。メはベの転」(『岩波古語辞典』),
「甕(か)と瓮(へ)と合したる語ならむ」(『大言海』)

で,「カメ」を構成する「へ」は,

瓮,

の字を当て, 「酒や水を入れたり,花を挿したりなどする底の深い容器」

である。「へ」は,「フ」になったのではなく,「瓮(ヘ→カ)」と「甕」へと転じていく。水・酒などの容器である甕があるのに,その「へ」を「フ」に転じて,容器に使うのかどうか,ちょっと疑問符が付く。

他は,「浮く」に絡める説が多い。

フカキニウカヘル(深浮)の略フへの転(日本釈名・類聚名義抄),
ウカブメグルの上下略に通ず。またネは根の義で岩根にウカブ意(滑稽雑誌所引和訓義解),
浮かぶ意で,ネは根の義(国語の語根とその分類=大島正健),
ウクナ(浮名)の義(言元梯),
フはウカムの約転。ネはノレの約(和訓集説),

どちらかを選べ,というなら,ぼくは,「浮」の「フ」を採る。

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(『肥前名護屋城図屏風』に描かれている安宅船(佐賀県立博物館蔵) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%89%E5%AE%85%E8%88%B9より)


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posted by Toshi at 05:27| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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